「※ネコ好きは注意」イノセンツ むしばさんの映画レビュー(感想・評価)
※ネコ好きは注意
超能力を持った子どもたちのサイコホラー(スリラー)。
人物描写や心理描写と伏線、怖さのベクトルがとても好みだった。
最初からラストまで、ずっとどう転ぶのかハラハラしながら見た。
ジャンプスケアは多少あるが、映像や音で怖がらせるよりも純粋に陰鬱なシナリオやキャラの心理や状況が恐ろしいのが良かった。
<あらすじ>
夏休み、団地に引っ越してきた9歳の少女。姉は自閉症でコミュニケーションが取れず、彼女のことを疎ましくも感じている。
団地では不思議な力を持った少年と知り合い、姉と心を通わせた感応能力を持つ少女とも仲良くなる。
4人で遊ぶうちに、主人公以外の3人の能力は徐々に強くなっていき…。
・イーダ
9歳の少女。自閉症の姉を持ち、両親は姉につきっきりで、昼間は姉の面倒をみるヤングケアラー的な役目も担っている。姉のことを疎ましく思い、姉に対してつねったり靴の中にガラス片を入れて憂さ晴らしをしている。
能力は持たない。
・アナ
自閉症のイーダの姉。コミュニケーションは殆ど取れず、痛みも感じないように見える。
アイシャと知り合い、お互いに心を読めるようになる。4人で遊ぶようになると、ベンと同じサイコキネシス能力も得る。
・ベン
軽いものを少しだけ動かす能力(サイコキネシス)がある。アイダに声をかけたのがきっかけで仲良くなる。
4人で遊ぶようになると、重いものを動かしたり、少しだけシンパシー能力を得たり、他人に幻覚を見せて催眠状態にもできるようになる。
父親はおらず、母親から心理的抑圧/虐待を受けていて、団地の他の子供からもいじめにあっている。
・アイシャ
心優しい少女。アナとお互いに心が読め(シンパシー)、アナの痛みを自分の痛みのように感じる。
優しい母を持つが、父親は最近亡くなったのか、人知れず泣いている母を見ることがある。
<ネタバレ>
序盤の主人公の姉に対する嫉妬やいらだちからの暴力描写。4人が仲良くなるに従って、姉への疎ましさも薄れていったが、ベンが能力が強くなるに従ってどんどん酷いことをしていくのを見て、主人公も同じように闇落ちしてしまうのでは…と、どちらに転ぶのかわからない展開にハラハラした。
序盤の主人公の話を聞いてくれない両親への諦観が終盤の自分だけでベンを止めようとする覚悟に繋がったり、嫌がらせのガラス片が終盤のベンへの殺意の道具かつ幻覚からの目覚めのアイテムになったりと、伏線の使い方が好みだった。終盤はこの主人公でないとベンを止めることが出来ないのではとすら感じた。(手段はさておき)
ベンは母親からの日常的な抑圧と男子からのいじめにストレスを溜め込んでいる。猫を殺してしまったのは、最初は純粋な興味(高いところから猫を落としても大丈夫的な通説?)でも、とどめを刺した部分は無垢故には見えない。
親から抑圧状態で問題のある子供は、まず弱いもの、猫や犬などの小動物を傷つける話はよく聞くが、ベンの場合はそれとは異なるようにも感じる。
母親を死なせた(殺したではない)のを契機として、いじめた子供の足を折り、他人に襲わせて殺し、邪魔者をどんどん排除していく。知り合ったときから仲良くし、自分を否定せずにいてくれたアンナに拒否された時は、あれだけ疎ましかった母親の名前を呼びながら泣くほどには傷ついていた。
主人公同様、ベン自身も善悪がわからない子供というだけでも、能力で次々に人を殺していく殺人鬼というだけでもない。彼らの感じる抑圧とストレスには共感してしまうし、その後の展開への恐ろしさもリアル。
アイシャ&アナコンビは好きだったので、アイシャが殺されてしまったのは残念で仕方がなかった。しかしホラーではいい人は早々にログアウトしてしまう定め…。ベンを止められるのはアイシャではなく、清濁併せ持ち能力を持たない主人公という展開も良い。
ラスト、姉妹で手をつなぎベンを止めたところ。
結局どちらの力か分からなかったというのは好きだった。妹かもしれないし、姉かもしれない。この姉自身も清だけとは限らないのだから。(アイシャ殺害への怒りという点もあるし、妹の能力を高めた=姉妹2人の力という見方もありそう)
人にはいろいろな面があり、それらが変わることもある。
子供が純粋無垢と思いたいのは大人の願望だろうというのがこの映画のタイトルなのかなと思った。大人の知らない子どもたちの戦いだった。