劇場公開日 2023年9月15日

「早々にオカルトとしての面白さを放棄してしまったことが惜しまれる」名探偵ポアロ ベネチアの亡霊 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0早々にオカルトとしての面白さを放棄してしまったことが惜しまれる

2023年9月17日
Androidアプリから投稿

この映画のキモは、「もしかしたら、幽霊が殺人を犯したのかもしれない」というオカルト的な趣向にあるに違いない。
ところが、霊媒師のインチキが早々に明らかになり、ポアロが(背後から)人間に襲われた時点で、観客に「幽霊なんて存在しないんだ」と思わせてしまうのは、作劇上の明らかな失敗だろう。
それでも、ポアロが、亡霊のような人影を目撃することで、オカルト映画のような雰囲気は残るのだが、これも、結局、薬物による幻覚だったということで決着がついてしまう。
ポアロによる真相解明にしても、「仮に、この人物が犯人だとすると、すべての出来事の辻褄が合うので、やはり、この人物が真犯人に違いない」という論法は致し方ないとして、殺人の動機や方法には無理があるとしか思えない。
特に、第一の殺人は、どう見ても行き当たりばったりだし、第二の密室殺人に至っては、あまりにもあり得ない話で、納得するどころか啞然とさせられる。すべてが、ポアロの推測の域を出ず、「だったら証拠を見せてくれ」と言いたくもなるが、それで犯人が観念して、一件落着となるところも、なんだかお粗末に思えてしまった。
最後に、医者の息子に関して、どんでん返し的な展開が用意されているのだが、残念ながら、大した驚きは感じられなかった。
ここには、むしろ、途中に出てきた「ポアロが目撃したのは、死亡した少女だった。」というエピソードを持ってきた方が良かったのではないだろうか?
ポアロが、そこで、初めて少女の写真を見ることによって、目撃したのは幻覚ではなく、幽霊だったとしか説明できないというエンディングにすれば、オカルト風味のミステリーとして、少しはゾッとすることができたのではないかと思えるのである。

tomato