「ネタ映画と思いきや特殊な知識を要求されたり結構厳しい状況。」さよなら ほやマン yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
ネタ映画と思いきや特殊な知識を要求されたり結構厳しい状況。
今年370本目(合計1,020本目/今月(2023年11月度)2本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))
まず、「ホヤ」は映画内でもちらっとでますが、海産物のひとつで、「海のパイナップル」とも言われます。その性質上、現地で食べられる傾向が強く、あまりこちら(大阪市)では見ないな、といったところです(ふるさと納税すれば送ってくださる自治体もある模様)。
タイトルからしてある程度「ネタ」な部分もあるのは確かですが、一方で東日本大震災の爪痕の論点、離島暮らしの不自由さの論点なども入っており、タイトルや一部の描写がネタ的に見えるのですが、結構真面目な映画ではあります。
テーマとしては「島への移住と国内移動の自由(憲法論)」といったところも一応入ってはきますが、主だって憲法論が取り上げられることはありません。
ただ最初にも書いたように、ある種ネタ的なタイトルであり、映画の描写も一部ネタ描写があるかと思えば、きわめて特殊な知識を要求したりとヘンテコな部分が多々あり、微妙かなぁといったところです。
採点は以下の通りです(4.1を4.0まで切り下げ)
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(減点0.3/東北弁が聞き取りにくい部分がある)
・ どうしてもこの手の映画はついてくる問題ですが、この映画もある程度聞き取りにくい部分もあります。中には「YesかNoか」だけでもわからない部分もあるので、最低限の字幕は欲しかったなといったところです。
(減点0.2/民法177条と不動産登記)
・ 家を買うには「当事者間では」契約だけでOKですが、第三者に対抗するには登記が必要ですから(民法177条)、この点「ただのお買い物」とは違いますので、その点ちゃんと入れておいてほしかったです(その割にそのあとに登場するものが本格的すぎてバランスが変)。
(減点0.2/一部の法律ワードがマニアック過ぎる)
・ このある種「ネタ的なタイトル」でもあるこの映画で、「抵当権」や「抵当権設定」「不動産登記」といった語はかなり厳しいです(それが極端だったのが「シャイロックの子供たち」で、こちらはある程度配慮はされているものの、こういった法律ワードが飛び交うのは結構きつい)。
(減点0.2/抵当権の設定について「不法占拠だ」)
・ 抵当権自体は普通にマンション、一戸建て住宅等で銀行からお金を借りていればつくものですので(普通通り家賃なり何なり支払いをしていれば何の問題もない)、それについて「不法占拠だ」というのは民法上も刑法上も根拠を欠きます。
(減点なし?/参考/兄弟は自宅を取得できるか?)
・ 要は民法162条の2(所有の意思を持ち、平穏公然、善意無過失)の10年間の短期取得時効を援用して(時効は援用する必要があります。勝手に発動しません。例外除く)取得できるか?という問題があります。
※ 時効は原則として明示的に援用する必要があります。この例外が年金関係の法律に多く見られ、一般的な解釈でよいように「届いていた請求書を払っておけばやがて年金がもらえる」ように、多くの国民が書類を出したり逆に受け取ったりということがないようになっています(特に年金税金など「お金にからむもの」は行政との間では大半「時効は明示的に援用できないし、するべき日に自動的にしたものとみなされる」ようになっています)
東日本大震災が2011年、現在が2023年なので12年で、映画の描写を見るとどうも兄弟は今いる家に10年以上住んでいるものと思われ、かつ上記の10年間の短期条件も満たしているようにも思われるところ(抵当権設定の登記があることを知っていることは、善意無過失の有無に関係しませんから(昭和43.12.24))、かなり微妙なところがあります(善意無過失は「占有開始時に」そうであればよく、のちに悪意や善意有過失になっても結論は変わりません)。
※ なお、他の方も指摘されていた通り、「抵当権がついていたことを本人も知らない」のは謎です。郵便事情が乏しいと思えること、また、今住んでいる家は引き継いだものである(映画参照)ことから、書類が見当たらないといった可能性もあります(通常、これらの書類は内容証明郵便等で来ますから、「知らない」ということはおよそなく(勘違いしている可能性は除く)、かなり変な設定ではあります。ただ、抵当権はそれ自体好き勝手発動できるものではありません。
ただ、この話題はかなりマニアックな上にこれを持ち出すと「時効取得と177条」という発展論点が登場して恐ろしく面倒なことになるので(これだけで5000文字いきそう)、完全にカットされたものと思います(そもそもそうしたことを描写する想定もなかったものと思います)。
※ ただその割に「不動産登記」や「抵当権」といったややハイレベルな語を出してくるのもヘンテコで、ある種「その意味でもネタ」ではあります(なんでこんなマニアックな展開にしたんだろう…。シャイロックの子供たちほどまでではないですが、この手のいわばネタ的な映画でまさか登記簿だの抵当権だのといった語を見るとは思いませんでした)。