「ギャレス・エドワーズ SFの新たなる“ニルマータ”」ザ・クリエイター 創造者 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ギャレス・エドワーズ SFの新たなる“ニルマータ”
低予算SFの無名だった監督が、“ゴジラ”と“スター・ウォーズ”という2大SFコンテンツの監督へ。SF少年にとってはこれ以上ないシンデレラ・ストーリー。
が、若い監督がメジャースタジオで大作2本を手掛ける事は心身共に疲弊し、スタジオとのゴタゴタもあって、暫し距離を…。
7年ぶりとなる新作は本人による完全オリジナル。勿論、SF。
つくづく、SF少年なんだと思わせる。ギャレス・エドワーズ!
題材は、人間とAI。
昨今のSFの定番であり、今年これで何本目か。映画の中だけではなく、AIを巡って現実(ハリウッド)では問題も。
手垢の付いた題材かもしれないが、ギャレスはこれにどう斬り込んだか。
人間とAIが共存する近未来。
2055年、AIがLAに核爆発を。西側はAIと戦争状態になるが、“ニューアジア”は依然AIと共存。
2065年、AIたちの創造者“ニルマータ”暗殺の任を帯び潜入した特殊部隊員のジョシュア。現地でマヤと出会い恋仲となり、彼女のお腹には生命が。しかし急襲に巻き込まれ、マヤは…。
2070年、失意の日々を送るジョシュアに軍が接触。“ニルマータ”の潜伏先を突き止めその暗殺と、記録映像にマヤの姿が。任務遂行とマヤとの再会を果たそうと再び現地へ潜入した彼が出会ったのは…。
一人の少女。いや、一体。
AI少女の“アルフィー”。
人類を滅ぼす最終兵器と言われる。こんな少女が…?
この人類とAIの終わりのない戦争の鍵を握る。この少女にどんな秘密が…?
暗殺が任務だった筈のジョシュア。が、少女に無慈悲な銃口が向けられた時…、葛藤しながらも、それが人の性。
少女を連れての逃避行が始まる…。
オリジナルのSFを見る時、何を期待するか。エンタメ性は勿論だが、世界観やビジュアルこそ真価が問われる。
本作の世界観やビジュアルも、人によっては単なる焼き直しの見向きもあるだろう。実際、そんな声も目立つ。
ただでさえ世界観の構築が難しいSF。この世界に身を置いた者の宿命。
目の肥えた意見を満足させる事が出来たか…?
本作にはそれに値するものがあったと言っていい。
人間体と機械体を融合したような本作のAI、“シミュラント”。
インパクト抜群。以前にも『エクス・マキナ』が人間の顔とロボットの身体であったが、あちらとはまた違うオリジナリティー。
やはりアルフィーのキャラが特筆。見た目は少女だが、あらゆる機器にハッキング出来る能力を持つ。
メカニックでは“ノマド”。宇宙空間に浮遊する巨大攻撃基地。宇宙からブルーレーザーで地上を探知。一つの区域を壊滅するほどの攻撃力を有する。監督繋がりでまるで“デス・スター”のよう。終盤ノマドがニューアジアの上空に現れたシーンは、『ローグ・ワン』のクライマックスでデス・スターが惑星スカリフに現れた際の威圧感と美しさを彷彿させた。
近未来ビジュアルで特に印象的は、ニューアジア。都市部はさながら『ブレードランナー』のよう。舞台となる島々は一昔前のよう。アジア各国の人種、文化、言語が入り乱れ。日本語表記も多く、テロップも英語と共に日本語も表示され(EDクレジットでも)、我らが謙さんも日本語を交えて話す。
多くのアジアンテイストが織り込まれているが、中でも日本色が濃いと感じた。ギャレスの親日家は有名だが、そもそも本作製作に日本文化が多大に影響。
発案がギャレスが見た日本語ロゴの工場。ジョシュアとアルフィーの旅路も『子連れ狼』から。監督曰く、『AKIRA』からも。日本の白黒特撮番組のようなものも…?
『GODZILLA』の時は“ゴジラ愛”だったが、本作はそれ以上の“日本愛”を感じた。
ジョン・デヴィッド・ワシントン、ジェンマ・チャン、アリソン・ジャネイら国際派&実力派の面々が集う。
やはり日本人なので、渡辺謙が気になる。AI戦士のリーダーを熱演。ちなみにギャレスが同じ俳優を再起用したのは渡辺謙が初めてだとか。
しかしキャストでVIPは、アルフィー役のマデリン・ユナ・ヴォイルスだろう。本作デビューで撮影時まだ7歳。オーディションで満場一致なのも納得なほどのAI少女という難しい役所を演じ上げた。当初の謎めいた雰囲気、純粋無垢さ、やがて芽生えるジョシュアとの絆、見る者の感情と心を揺さぶる事必至!
世の中にはまだまだ恐るべき才能を秘めた子役がいるもんだ。
ギャレスの演出は本作でもお馴染み。
アクションや見せ場は挟みつつも、序盤は静かにスロースタート。徐々にボルテージ上がっていき、クライマックスの頃にはカタルシスを迎える。
クライマックスのノマド破壊戦は、『ローグ・ワン』のクライマックス戦のような興奮と高揚感。
それに熱きを加えるは、エモーショナルなドラマ。
本作は“創造者”“子”“友”“母”と章分け。それぞれ要となるキャラや物語が請け負うが、主軸はジョシュアとアルフィー、そしてマヤ。
“ニルマータ”とは誰か…?
一貫するジョシュアのマヤへの愛。
ジョシュアとアルフィーの絆。
マヤとアルフィーの関係。
薄々察するかもしれないが、これらが一つに繋がった時…、
ラストのジョシュアのアルフィーへの眼差し、ジョシュアとマヤの“再会”…深い感動を呼ぶ。
黒人にアジア人。舞台はアジア風。また昨今ハリウッドお決まりの“アレ”かと思いもするだろう。
でも個人的に本作は、ベトナム戦争へのアンチテーゼなのではと感じた。
本作の人間とAIの戦争の勃発、そこに隠された真実など、ベトナム戦争のそれと酷似している。
ベトナム戦争は先制攻撃を受けアメリカが報復攻撃を開始と当時言われていたが、真実は、アメリカが先に手を出した。
本作でも実は核爆発は人のミス。それをAIの責任に。
大国や強者の傲慢、隠蔽、愚かさ。
勝手にそれによって世界の“敵”にされた小国や弱者の悲哀…。
終息未だ見えぬ今の戦争にも通じる。
それを人間とAIに置き換えて。
人間とは…?
AIとは…?
人間は何故愚かな争いを続けるのか…?
この世界に平和や救いはあるのか…?
自分色のオリジナリティーとたくさんのオマージュ、
多様性や戦争や社会情勢などを織り込み、
その根底にあるのは紛れもない愛のドラマで、
ギャレスは今年の中でも秀逸のSFを創造した。