「世界は自分を中心に回ってない」違国日記 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
世界は自分を中心に回ってない
組織や社会を変えるのは
「よそ者」「わか者」「ばか者」だと言う。
それは共同体の最小単位である
家族にしても同じことだろう。
本作の片方の主人公は
人見知りで引きこもりがちな小説家『槙生(新垣結衣)』。
付き合いのある知人はごく少数。
締切りに追われるのにかこつけて、自宅の中は荒れ放題。
そんな彼女が、不慮の交通事故で両親を亡くした
姪の『朝(早瀬憩)』を引き取ることに。
葬儀の席での無神経な親戚の態度に義憤を覚え
勢いで申し出たもの。
亡くなった姉とは
「あの人」と表現するくらい幼い頃からの不和。
果たしてそんな人の娘と、うまくやっていけるか?との
一抹の不安を抱えつつ。
姪はかなり昔に会ったきりで、一種の「よそ者」。
そして、今春高校に入学予定の「わか者」。
二人が同居をすることで
生活に化学変化が少しづつ起こる。
もう一方の主人公は『朝』。
突然の両親の死、とりわけ母を亡くしたことで
己の魂も遊離状態。
現実感は薄く、時として
母親の幻を視、幻声も耳に。
唐突に自分を引き取ると言い出した『槙生』にも
不信感と信任がない交ぜの気持ち。
ましてや、中学卒業~高校入学の過渡期。
環境の変化も精神をより不安定にさせる。
物語はそうした二人の日常を追い、
陰日向に助ける友人たちを交えながら緩やかに進む。
驚くほどの事件は起きない、
小さな波紋は有りつつ日々は穏やか。
しかし、そんな中にも
二人の関係と個々人の成長につながる出来事は存在し、
それらが解決を迎えるごとに、
見ている側もほっとし心が温かくなる。
次第に絆が深まっていくように傍目には見える。
とは言え、各人の心中に深く立ち入らない、
薄っぺらな解決にも思え、圧倒的なカタルシスは無い。
直近では〔夜明けのすべて〕と近似の印象で
やはり時代がこの種の癒しを求めているのか。
二人の主人公のうち
オーディションで今回の役を勝ち取ったと聞く『早瀬憩』は
演技の面では三歩も四歩も他の出演者に劣る。
特に、十五歳にしては共感を持てぬほど幼い思考が表に出た時の
平板な表情は目を覆いたくなる。
もっとも、エピソード自体が、
波風は立っても、当事者間でいつの間にか和解していることの連続なので、
演出の成果と言えなくもないのかもしれない。
あくまでも、ふわっとした状態なのだ。
『新垣結衣』については、アップのシーンが多くあり、
ファンにとっては嬉しい画面の連続。
蟹股気味にどすどすとがさつに歩くのは、
本作の中だけの設定なのだよねぇ。と
要らぬ心配をしながら。