「移民を受け入れない限りこの映画の意義は残り続ける」不安は魂を食いつくす iwamoogさんの映画レビュー(感想・評価)
移民を受け入れない限りこの映画の意義は残り続ける
23年8/14新生したルシネマで。
ファスビンダーのインタビュー本を日常的に読むのが趣味なので、本人による解説を散々読み込んだ上での何年振りかの再鑑賞。
見どころの一つである、主人公の周囲の人物たちの手の平の返しっぷり。
初見のときは呆気に取られるほどで、こんなことあるのか?というくらいの急展開に感じられたが、今回はファスビンダーの意図がよりよく読み取れたように思う。
差別心を露わにしてアリに意地悪する雑貨屋の主人は、妻に諭されて上客の機嫌を取り直す。
母から外国人との結婚を知らされた際に激昂してテレビを破壊するエミの息子は、自分の子供の保育所の空きがないので母親と仲直りして子供を預けたい。
外国人は不潔と言い放っていたアパートの住人は、事情があって物置きに荷物が増えて大変👉移民のあの人ガタイが良いし運んでもらえば解決やん?という発想で下手に出てエミに荷物運びを依頼する。
彼らはそれぞれ利益を得るために態度を豹変させているということが明白なのである。
その利というのがドラマチックなものでは一切ない、日々過ごしている中で、ちょっとこれがあると助かるんだよな〜というレベルの生活の利なのが見事である。
これがファスビンダー曰く、エミとアリの夫婦は結局「受け入れられてない」ということなのか!と膝を打った(インタビューでそのように発言している)。
この「受け入れられてない」状況からエミだけが立場を安定化する利を引き出す。
そのために2人にすれ違いが起き、そのすれ違いに翻弄されてエミとアリはそれぞれ行動する。
この関係性の変化の鮮やかさに見入ってしまうし、彼らの行動がなんとか身を結んで欲しいと思ってしまう。
しかしすれ違ったままで映画は終わってしまうので、実に悲しい終わり方だと思う。