「したたか」BAD LANDS バッド・ランズ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
したたか
全編通して小気味がいい。軽やかだ。
冒頭に流れる音楽もそうだし、軽妙な大阪弁、台詞や特に編集が上手いように思う。
扱ってるネタは散々たるものだ。
ノワール映画と括られるらしいが、普通の生活をしていてはお目にかかれない世界が広がっている。
西成の一角などはスラムにも見える。
臭いモノに蓋
君子危うきに近寄らず
その"臭いモノ"や"危うき"が鮮烈に紡がれていく。
前半は好奇心。
へー、こんな世界や生活があるんだ、と。本編中にも何度か下級という言葉が出てくる。底辺の底に落とし穴を掘ってるような人々が映し出される。
詐欺や犯罪に手を染めた側も、めちゃくちゃ頭使ってんだなぁと感心する。
中盤以降はパワーゲームだ。
弟の登場で、厄介事に巻き込まれていくネリ。
結構な修羅場なのだが、コレまた軽妙なやり取りが続く。不思議と納得させられる。
関西弁に魔法でもかけられてるようだ。
後半になって「僕」と呼称する元用心棒もいい味だしてる。宇崎さんがやってんだけど、抜群の存在感だった。
最終的には全ての追い込みを躱し2億近くの金を手に入れる主人公・ネリ。
ラストカットのストップモーションが全てだった。
彼女は自由を手に入れた。
その解放までを描く143分だった。
その為の前半で、圧力と袋小路と絶望とを描き、そんな生活の中でも僅かな糧を描く。
安藤さんは最高に素敵で、本作ではサーファーのように畝り倒す波を乗り越えてゆく。彼女がプロサーファーのように見えたのも、監督が作り出す波とリズムなのだろう。作中に棲息する人物に、風景に、その画角に魅了さらてしまう。
1番おどろいたのは映画館を出た後だった。
いつもの帰り道がいつものように見えてこない。
街行くサラリーマンや、購買意欲を煽る広告、仲良さそうに手を繋いでるカップルとか、駅に向かう人の流れや、車内で沈黙しスマホを見つめる人達とか。
「あぁ、俺たち頑張ってんだなぁ」と思えた。
"普通"から振り落とされないように、経済を維持する努力を怠らず、頑張ってカッコつけて、自分達が背負ってる重荷になるべく気が付かないように生きてんだなぁと思った。なんと虚飾に溢れた世界なのだろうと。
洗脳から解かれたような錯覚に陥る。
その"普通"から疎外されたり放棄したりしたら、あんな風に身軽になれるのかな?まるで自身の命にさえ執着してないようにも見える。
諦めのような感情もあるのだろう。
そんな中のラストカットだ。
服を脱ぎ捨てて走り出す彼女の前には、今まで感じた事がなかった未来が広がってるようだった。
この清涼感は何なのだろう?
今までの全部を吹っ飛ばすようなラストだった。
安藤サクラさん。
今年度の俺的アカデミー最優秀主演女優賞かなぁー