「音を改変した非ドキュメンタリー映画」破壊の自然史 comeyさんの映画レビュー(感想・評価)
音を改変した非ドキュメンタリー映画
最後に流れるクレジットに「ADR」のものすごく長いスタッフ一覧がある。ADRは Automated Dialogue Replacement、つまりアフレコ・吹き替え。映像素材に編集段階で音を新しく加えたり修正したりする作業のこと。
これ自体は普通の映画でも一般的なポスプロ作業なんだけど、この映画は、それをほとんどすべてのショットに行っている。爆音、銃撃音、悲鳴、路地のざわめき…全部つくりものです。
つまり、この映画をNHKのドキュメンタリー番組のようなものと理解してはならない。これはあくまでロズニツァ監督の脳裏にひらめいた戦争のイメージを再構成したにすぎない。決して「ドキュメンタリー」ではないです。
それを理解した上でなら、ウクライナ育ちのこの監督による戦争観は、ところどころ興味深い部分を含んでいるとは思う。とりわけ資本主義の世界にまきこまれた市井の人々が、敵・味方どちらも自分たちの役目を淡々と果たしているだけなのに、結果として、無意味な殺戮が拡大してしまうという構図。が、個人的には、それも唯一無二の新鮮な視点とは思えなかった。
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