哀れなるものたちのレビュー・感想・評価
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薄っぺらい男に力を誇示したがる男…世の中のクソ男たちに支配されずに、自らの自由意思で選び取ること。差別、貧困、環境問題 etc...内側が異型の男たちが回す世界の"普通"常識など疑い・抗い・ブチ壊して選手交代!! クソ男は用済みです。止めようのない自我に目覚め、止められても踊るところがよかった。
唯一無二ヨルゴス・ランティモス✕エマ・ストーンによる悪魔的なファンタジー(セックス)コメディ。端的に言えば不思議で奇妙"変"ヘンテコだけど、最後まで面白く見ていられる。エマ・ストーンがキャリア最高峰オスカー級に素晴らしいけど、助演のウィレム・デフォー&マーク・ラファロもニクい。外の世界を知りたい、自らの目や耳で冒険したいという、とめどなく溢れ出す自由への渇望がフュリアス・ジャンピング!演技も撮影も音楽もどこを切り取っても贅沢。
想像力かきたて広がる世界で問いかけ突きつけてくるクソみたいな世界のリアルと人間の凶暴さ。魚眼レンズに極端なパンなど分かりやすくカメラという存在を意識させる作りに、そしてモノクロとカラーを使い分け、彩りは極端なほどビビッドにカラフルで虚構性を強調する。それらはまるで本作が"物語"であることを伝えながら、同時にその奇妙さから世界の真実を炙り出しているようだった。今までにも増して観客を選びかねない作品だけど、それもまたこの監督らしいと言えば"らしい"作家性。
P.S. そこまでしなくちゃいけなかったのか?…という点はあって、作品の内容含めてまだまだ消化しきれていない。
凄いものみた……!!
途中途中で何見せられてんだ……って気持ちになりつつも
ああいうラストに持っていくランティモスの手腕。
トッド・ブラウニングの「フリークス」やないか。
あんな壮大な曲かけられたら、凄いもん見た気になっちゃうよ
ただ、全てがベラの権利を主張する為にあって、
そこにも励まされた。
鑑賞後の満足感が半端ない
人によっては低評価かも知れません。
序盤は今年初のやっちまった系かなと思わせながら、それでもダレること無くストーリーは進んでいきます。
そうすると中盤からグイグイ引き込まれ、終わってみればスゴイもの観させてもらったと大満足でした。
で、何がそんなに良かったかなんて私の拙い文章で表現できるはずもなく、そんなんでレビューなんか書くなよって話ですが、鑑賞後にしみじみR18+を観られる年齢で良かったと感じた映画でした。
ちなみに私は芸術性が高いとされる映画や作家性の強い映画(本作の監督が本作でオマージュしてると言ってるティム・バートン監督作品など)は苦手で、序盤はまさにそんな感じ満載でこりゃ失敗したと思ったんですが、映画の世界観とか出来事は観ているだけで全てわかり易く理解できるように作られており、エログロの表現が受け入れられないとかなければ、オトナにオススメのブッ飛びオモシロ映画だと思います。
異訳:フランケンシュタインの娘の成長物語。
本年の劇場鑑賞1本目は、コメディ部門でゴールデングローブ賞を獲得した本作。
すわ、アカデミー賞受賞も見据えられており、期待を込めて見てみよう、と。
ヒトの理性の外側の、好奇心。物体や事象への興味。
それらを「欲」というのであれば、この作品は、幼く、しかし幼さと矛盾したオカルトチックで純粋な「欲」にまみれた物語でした。
ああしかし。こんなものを140分も、いったい何を見せられているんだという感じは否めない。ずっとエロいし、グロいし。笑うといってもシニカルなそれ。日本人がうまく笑えない質のもの。スウィーニートッド見たときの感覚をちょっと思い出した。
要するに主人公ベラの行きて帰りし物語であり、充分に成長しきったヒトである私からすると、ベラが進歩したと言っても正直、見るべき学ぶべきものは無い。赤子が大人のカラダを借りて急成長しただけの話で。ここで、見る人により、この作品への評価は分かれそうな気がします。
こんなくだらない映画が映画賞を受賞するようでは、世も末とも思う自分がいる。もし主役を演じたのがエマ・ストーンでなかったとしたら、同じように評価できるのだろうかと。同じ作品を邦画でリメイクしたら大問題作と評価されそうだよな。
ただしかし、不思議と鑑賞後感は悪くないように思えてくる。ちょっとパリの時間が長すぎて、全体2時間くらいに収めてもよかったような気もするが(まああの娼館がベラの急成長の起点だから仕方ない?)、その割にはテンポは良く、話の面白さはあった。
また、身にまとう衣装や、SF×中世のような舞台の世界観、色彩、デザインはどれも素晴らしい。これは後々に残っていく高いレベルとおもう。きっと絵コンテも素晴らしいものに違いない。
うーん、なんなんだこの作品は。
要約してみると、、
ベラは、スラムに住む子どもたちを哀れと思う。性欲にまみれる男たちにも哀れみを感じる。自らを生物実験台とした悪魔のような生みの親を赦す。自らを思い慕う愛を受け入れる。そしてラストでは母の復讐を自らの業に沿った形で成し遂げる。さらに、医師を目指していくベラはきっと人助けのための医学者になるのであろう。主人公の筋道だけを抜き出してみると、まるでどうだ、こんなにも美しい物語ではないか!
エログロSFヘンテコ作品と切って捨てることの出来ない、この感覚がこの映画の不思議な魅力なのだろうか。
いやはや、今年は1作目から悩ましい作品に出会ってしまったものだ。出会ったことの後悔は、一切ない。
禁断の果実
寓話色の強い話で、クセの強いカメラワーク、色彩、映像、衣装含めて見事な世界観を表現。アダムとイブが如き果実の使い方って、おいおい、下の口にもってってどうするねん。そして目醒めるって破壊的に過ぎる。性に肯定的で罪悪感も羞恥も捨てて、生を知る旅に出る。自分のルーツを眺め思いふけるシーンがいい。
こっちは頭の整理がつかないが、やりきった潔さだけは間違いない。
Girls Just Want To Have Fun
「哀れなるものたち」ダークなストーリーを予想していたんだけど、女性版フランケンシュタインの形を取りながら、女性の人生を勝手な物差しで限定しようとする男たちを主人公が翻弄し打ちのめしていく様をゴシックでもないサイケでもない、今まで観たことのない映像で描いたぶっ飛んだコメディでした。うん、痛快。ただ、売春宿での描写をどう捉えるかで、評価や好き嫌いは別れるんだろうな。
息をのむほど美しいR18+
もう雲の造形と配色だけでご飯3杯いける。
2時間半画面に釘付け。美しすぎる映像。ただ美しいんじゃなくてアートとして至高。R18だけど美術系志望の高校生に見てほしい。十代でこうした作品に触れてほしい。私が十代でタルコフスキーに触れて人生変わったみたいに、ヨルゴス・ランティモスにもそんなパワーがある。
性をダイレクトに描いているところに説得力を感じる。ここらへんはこれまで社会的に隠されてきた題材だけど、重要なテーマ。
その人が性的に魅力的かってことは重要だよね。
性的に満足できるか、深い親密さを共有できるかってことも。
エロくて猟奇的な演出や画面の配色、衣装のデザイン。とても刺激的。
けっこうヤバい脚本。ギリアウトなプロットだと思う。
そして圧倒的な存在感のエマ・ストーン。
この作品に出会えて良かった。
【”解放。”哀れなるもの:女性の自立を認めずに自身の籠の中に閉じ込める者。今作は蘇った女性が様々な土地を旅する中、経験を積み再び赤子から大人に成長する過程を、壮麗な美術を背景に描き出した作品である。】
ー 冒頭、カラーで独りの青いドレスを身に纏った若き女性が川に身を投げる。理由は描かれないが、最後半に登場する彼女の夫である愚劣極まりない女性蔑視のアルフィー(クリストファー・アボット))の所業を見れば、理由は分かる。-
◆感想
・冒頭のシーンの後、画はモノクロになる。そこでは、ベラ(エマ・ストーン)と呼ばれる女性がゴッドウィン博士(ウィレム・デフォー)の邸宅で、赤子の様に振舞っている。
ー 冒頭、身を投げた女性に何が起こったかは、ゴッドウィン博士の台詞”死後硬直も起こしていない状況だったため”処置”は上手く行った。”で分かるが詳細は語られない。
だが、ショットで映される人間の頭を開き、その中の脳が見える絵の数々から推測できる。-
・ゴッドウィン博士はベラの面倒見も含め、マックス(ラミー・ユセフ)を助手として邸宅に住まわせる。
ー 因みにゴッドウィン博士の顔面はフランケンシュタインの様である。彼の言葉から察するに、彼の同じく外科医で社会の発展のために息子の身体で様々な実験をした父の行いらしい事が、推測できる。ー
・徐々に知恵がついて来たベラは外の世界を見る事を欲する。冒頭のシーンがそれを裏付けている。
そんな彼女に近づいた放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)は彼女をロンドンからリスボンに連れ出す。そして二人は”熱烈ジャンプ””=セックスに耽溺し、ベラはエッグタルトの美味さに目覚めていく。
ー ベラが、徐々にダンカンの世界から自身の世界観、価値観を持って行く過程が巧く描かれている。因みにこのシーンからモノクロからカラーに戻る。
ヨルゴス・ランティモス監督の感性が光る部分でもある。-
・ベラは更に船上で老婦人のマーサと黒人青年ハリー(ジェロッド・カーマイケル)と出会い哲学や読書の魅力を学んでいくのである。
ー ベラが読書しているとその本を二度も、海へ投げ込む愚かしくも、面白き、ダンカンの姿。ダンカンの世界から離れ、知識を得て行くベラ。 ー
・アレクサンドリアでは、ベラは塔の上から地面を眺めると貧しき人たちが多数居る。彼女はその姿を見て涙し、ダンカンが賭けで勝った金を含め全財産を彼らに与える様に船員へ伝える。
ー 当然、ベラとダンカンは文無しになり、ダンカンは怒るのであるが、ベラは気にしない。この辺りから、ダンカンの人間としての底の浅さが鮮明になるのである。-
・パリで船から降ろされたベラとダンカン。雪が降る中、ダンカンは傘を指し何も出来ないが、好奇心旺盛なベラは宿探しに出る。出会った老女は娼館の主であり、ベラはそこで娼婦として働き始める。客一人30フラン。だが、彼女はそれを楽しみつつ娼館の売れっ子になるが、ダンカンは身を売った彼女に激怒し、別れる。
ー そして、知恵が更に付いたベラは、稼いだ金で医学を学ぶのである。ー
■余命僅かとなったゴッドウィン博士の事を書いた手紙が舞い込み、ベラはゴッドウィン博士の邸宅に戻る。
そして、婚約者だったマックスと結婚式を挙げようとするのだが、そこに現れたアルフィーと背後にこそこそ隠れている愚かしき男、ダンカン。
ベラはアルフィーの邸宅に戻るが、アルフィーの執事、お手伝いに対しての横柄な態度を見て、ベラは自身が身を投げた理由を思い出して行くのである。
そして、自分の本当の名がヴィクトリアである事も・・。
更には、自分の脳は自らのお腹にいた子供の脳である事も知った彼女。
逆に、彼女の自由奔放な姿を見たアルフィーは、彼女に睡眠薬を飲ませ彼女の股の間にある女性に取って性愛を感じるモノを切り取る事を画策するが、ベラはそれを耳にしてしまう。
そして、拳銃を向けるアルフィーに対し、ベラは決然と対峙し渡された睡眠薬入りの飲み物をアルフィーの顔にぶちまけるのである。
そのはずみでアルフィーは自らの足の甲に銃弾を撃ち込んでしまうのである。
<ラストシーンは実に実に爽快である。
ベラは、卒倒したアルフィーに睡眠ガスを吸わせ、或る手術を彼に行うのである。
そして、ベラは庭園で椅子に悠然と座る中、山羊の脳を頭に入れられたアルフィーは、庭の植物を山羊の恰好で漁っているのである。
今作は、女性の自由、自立を認めずに籠の中に閉じ込める者の愚かしさと共に、蘇った女性が様々な土地を旅する中、経験を積み再び赤子から大人に成長する過程を、壮麗な美術を背景に描き出した作品なのである。見事な作品である。
<2024年1月26日 劇場にて鑑賞>
<2024年1月29日 別劇場にて再鑑賞。>
・依って、勝手ながら評点4.0を4.5に変更致します。
類まれな名作
シュールレアリスムの世界で生の生命をエマ・ストーンが体当たりで演じる
アカデミー賞主演女優賞は本作エマ・ストーンの動の演技と
フラワームーンのリリー・グラッドストーンの静の演技の一騎打ちとなるが
甲乙つけがたくどちらかが獲れないのは誠に勿体ない話だ
如何にも英国製原作のよく練られた文学性の高い物語
エマ・ストーンの卓越した表現力と一つ一つ具体的に
丁寧に説明されて進行していくのでしっかりと観ていれば
置いてけぼりになる人はいないでしょう
冒頭で何故ベラが身を投げたのかが
明らかになる終盤は如何にも英国小説の醍醐味ですね
もう既にオスカー女優ですが
本作でついにリアル・ララ・ランドを実現しました
桁はずれの映像体験!
まるでスタンリー・キューブリックの新作を観たときのようなショック状態になった。これを観る前と後では人間が変わるだろう。予定調和なルールなんぞまったく目もくれない大胆すぎる映像と展開に辟易しまくり。今日日そんな映像体験は決してできないから返って気分爽快!なにもかもに惹きつけられ深く記憶に刻まれた。そして間違いなくおもしろい映画だ。ランティモス監督、あんたがモンスターだよ。
ヨルゴス・ランティモスの才気爆発
楽しみにしていた映画
『籠の中の乙女』のそれからみたいな話だったな
オープニングから中盤までが素晴らしく、美術、音楽、衣装、魚眼レンズやかぐるぐるボケのレンズ使った撮影とか、ランティモスの才気が爆発してた
美しき痴人を演じたエマ・ストーンが最高だし、ウィレム・デフォーも相変わらず良かった
次回作も同じようなキャストが揃うらしいので今から楽しみだ
グロいシーンもあるので苦手な方は覚悟して!
革新的で芸術的な世界観を追究した傑作!
ある意味ベラの復讐物語のようでした。始まりから一定時間は白黒映画になっており、他の映画との格の違いをみせつけられているようでした。エマ・ストーンのゼンマイ仕掛けのような動きが絶妙でした。
フランケン顔のゴッドウィンは、最後どうなったのか気になります。てっきり手術でベラの夫の体を借りて、生き延びるのかと思っていました。
音楽もインパクトがあり、大変刺激的な作品です。
人生をリセットしたいと思った事のある人には何か刺さるものがあるだろう
内容が興味深かったので公開初日に鑑賞。
結論から言うと、まぁまぁ深く考えさせられて面白い。
人生をリセットしたい、生まれ変わったように生きたいと思った事のある人は刺さるものがある。
最初は人形のように歩き精神年齢も幼児のベラが、成長して心が見た目に追いつくようになる。
そして常識や偏見に囚われず純粋な心で物事を認知し世界を生きていく様は面白い。
まぁ途中、身体の大きい幼児のような言動が耐えられない人もいるかもしれんが実際に存在する頭が子供のまま止まった世間の老害たちと比べると、まだベラは賢く聡明に成長していったから褒めるべきである。
そしてベラ役の女優がまた奇抜で鮮やかなデザインのドレスがよく似合う。顔も実験体2号と比べるとやはりオーラがあって2号の女優さんでは越えられない壁がある。
初老のおじさん達との大人のシーン(若いイケメンならまだしもあまりビジュアル的に見たくない)や、グロいシーンが苦手な人はその部分だけ目を閉じて瞑想する事をおすすめする。
不安な不協和音ややたらうるさい効果音もたまにしつこいので大きな音が苦手な人は耳栓を用意した方がいいかも分からん。
ただ全体としては芸術的な映画でとても良かった。
自分を所有物にしようとしてくる男どもを蹴散らす精神もかっこいい。
個人的には船で出会った教養のある知的な2人(白髪の上品なマダムと黒人の人)が好きだった。
そりゃ、アホな色欲好きの初老のおじさんの時間の無駄のような相手するより、美しい夕陽を見ながらバルコニーで本と共に彼らと知的な会話を楽しむ方がベラにとっては価値のある時間の有効活用だったのは言うまでもない。
ただ一点、覗き穴からベラを観察するような描写は何だったのか?
相変わらず自分の理解力のなさにトホホとなる。後で調べてみようと思う。
自由を求める魂
ベラが既存の価値観へのNOを突きつける。
父権主義も、資本主義の非常さも、暴力も、ありとあらゆる理不尽に対して、無垢な眼差しで「これは認めない」という魂の自由。
男女や人種を超えた平等への強い欲求。
生きる術を学んで前に進もうとする強い意志。
セットや衣装、美術もすごいし、カメラワークも素晴らしかった。
閉じこめられている間はモノクロの世界。
冒険に出て世界に触れるとカラーになり。
納得できない事態に遭遇すると、ベラを取り巻く世界が「歪む」「暗くなる」「視界が狭くなる」のをレンズで表現。
決して奇をてらったわけでなく、ベラの心に合わせた描写を作っているだけなのがわかる、ストレートな作りでもありました。
素晴らしいと同時に、観る人間に心のあり方を問い詰める怖い作品だと思った。
自力でちゃんと解釈したい!
夜勤明けで見に行きました。
…が、ちっとも眠くなんてなりませんでした。
突飛だったり、過激だったり、インパクトのあるシーンや展開が目白押しで、エマ・ストーンの演技も見事だし(すでにフランシス・マクドーマンド レベル?)、見終わった後は頭がヘトヘトになるくらい疲れましたけど、スクリーンから目が離せず、テーマや意図は分かりそうで分からず、でも分かったような気もするんです。
荒唐無稽で摩訶不可思議な映画だけれど、何というか誠実さが感じられるんです。
Don't think, feel ! では済まされない何かがありそう。
そもそもタイトルの『哀れなるものたち』…って誰のこと?
この映画、フランケンシュタインがモチーフ?
ファンタジー映画?
フリークス映画?
コメディ映画?
アート映画?
哲学映画?
女性の成長と解放と本音を描いた「行きて帰し物語」?
モノクロシーンとカラーシーンの違いは何?
時代設定は19世紀中頃?
パフスリーブに意味はあるの?
作中、意外に2〜3週間くらいしか時間経過してない?
エンドロールのスライドショーにも意味があるの?
主人公はこの後どうなっちゃうの?内面的に急激な成長をしちゃうけど、それなりの寿命をまっとうできる身体なの?
疑問は尽きませんが、今後ネットでは多くの人が検証・考察を発表していくのでしょう。しかしこの映画は自分の力でちゃんと解釈したい!
そんな気持ちにさせる映画でした。
【鑑賞翌日追記】
まずは基本情報のおさらい。
監督:ヨルゴス・ランティモス(1973年生、公開時50歳)
ギリシャ人!
ギリシャ映画なんてあんまり記憶にないし、映画制作の盛んな国という印象もない…。ちょろっと調べたら、カンヌ映画祭で評価された監督さんは何人かいるっぽい。それにこの監督さんも、出世作は2009年のカンヌ映画祭で受賞してるんですね。
代表作は…
『籠の中の乙女』(原題:Κυνόδοντας、英題:Dogtooth)2009
『ロブスター』(原題:The Lobster)2015
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(原題:The Killing of a Sacred Deer)2017
『女王陛下のお気に入り』(The Favorite)2018
「聖なる鹿殺し」は見たことあります。緊迫感の塊みたいな凄まじい映画でした。ギリシャ人らしく、ギリシャ神話をモチーフにすることが多い監督さんなのかな。ギリシャではギリシャ神話は小学生の頃から必須科目だと聞いたことがあります。日本人はおろか他の欧米人などと比べても、圧倒的にギリシャ神話に関する素養が深く根付いているのでしょう。
脚本:トニー・マクナマラ(1967年生、公開時57歳)
オーストラリア人。
代表作は…
『女王陛下のお気に入り』(原題:The Favourite)2018
『クルエラ』(原題:Cruella)2021
ということで、ランディモス監督や主演のエマ・ストーンとは盟友って感じでしょうか。
そういえばこの映画、ランディモス監督やエマ・ストーンはプロデューサーも兼ねてますね。主要スタッフの力の入れようが察せられます。
原作者:アラスター・グレイ(1934〜2019、享年85歳)
スコットランド人。現代英文学では相応の重要人物であるようです。原作小説『哀れなるものたち』は1992年に刊行。
出演は…
・エマ・ストーン(1988年生、公開時35歳):ベラ(主人公)
・ウィレム・デフォー(1955年生、公開時68歳):ゴドウィン(人格者だけどマッド・サイエンティスト)
・ラミー・ユセフ(1991年生、公開時32歳):マッキャンドレス(ゴドウィンの助手)
・ヴィッキー・ペッパーダイン(1961年生、公開時62歳):プリム夫人(ゴドウィンの家政婦)
・マーク・ラファロ(1967年生、公開時56歳):ダンカン(主人公と駆け落ちする弁護士)
・クリストファー・アボット(1986年生、公開時37歳):アルフィー・ブレシントン(主人公の本来の夫)
・ハンナ・シグラ(1943年生、公開時79歳):マーサ(船で出会った知的な老女)
・ジェロッド・カーマイケル(1987年生、公開時36歳):ハリー(船で出会った知的な黒人青年)
・キャサリン・ハンター(1957年生、公開時66歳):スワイニー(娼館の女主人)
・スージー・ベンバ(2000年生、公開時23歳):トワネット(黒人娼婦)
・マーガレット・クアリー(1994年生、公開時29歳):フェリシティ(2番目の蘇生実験体)
エマ・ストーン、ウィレム・デフォー、マーク・ラファロのお三方は超有名ですが…
マッキャンドレス役のラミー・ユセフさんはアメリカ生まれのアメリカ人だけど、ご両親はエジプト人でムスリムの血筋…なのかな?この映画の無国籍というかエキセントリックなムードをじんわりと醸し出してますね。ちなみにマッキャンドレスなんて名前は初めて聞きましたが何人の名前?「マッ」で始まるからやっぱりアイルランド人とかスコットランド人の名前?
プリム夫人役のヴィッキー・ペッパーダインさんはイギリスの脚本家・女優。
老婦人マーサ役のハンナ・シグラさんはドイツのベテラン女優。
トワネット役のキャサリン・ハンターさんはご両親がギリシャ人で、アメリカ生まれで、イギリス育ちの女優であり舞台演出家。
この辺はもう経歴充分の超実力派。記憶に刻み込まれるような一癖も二癖も深い奥行きもあるキャラ立ちまくりの重要チョイ役。経歴を知ればあまりに贅沢そして納得の布陣です。
美形キャラの人たちも実績を重ねる実力派揃いで配役に無駄がありません。
製作会社は…
・TSGエンターテインメント
・エレメント・ピクチャーズ
・フィルム4・プロダクションズ
TSGはディズニーグループの外郭企業みたいなもの?
エレメント・ピクチャーズはアイルランドの映画製作会社で、フィルム4は確かイギリス国営放送の系列ですよね。
この映画、ハリウッド映画でもアメリカ映画でもありませんよ。アメリカからも出資はされてますが基本的にイギリス映画です。それにアイルランドの資本も入ってるみたいです。
こういう基本情報が欲しくてパンフレット買っちゃったんですが、私の欲しい情報はあんまり乗ってなくて、結局ネットをあちこち回って調べちゃいました。
そして多国籍なスタッフ・キャストの情報を眺めるうち、ベラの冒険旅行は駆け落ちというよりも、むしろグランドツアーだったのではないかと思うようにはなりました。そして黒人青年ハリーも、パトロン女性と共にヨーロッパを巡るグランドツアラーだったのでしょう。マーサとハリーのプラトニックな関係性、実に興味深い!ここはきっとハリーが黒人であることに惑わされてはいけないのでしょう!これは作品に散りばめられた「めくらまし」の一つだと推測。あるいは当時、もしかするとイギリスに黒人貴族や黒人ブルジョワがいたのかもしれない。その辺、詳しくないので分かりませんが…。
【鑑賞10日後追記】
自力で解釈するため、監督さんの過去作『籠の中の乙女』『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』『女王陛下のお気に入り』の4本をじっくりと鑑賞完了。
それとは全然関係ありませんが、本作のキービジュアル、エマ・ストーンの顔ドアップの写真なんですけど、はみ出たアイシャドウや口紅の中にウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、マーク・ラファロの姿が映し込まれているのを発見!
この10日間、ヨルゴス・ランティモス漬けでした…。
【およそ1ヶ月後の追記】
改めて本作を見直してみました。
監督さんの過去作を見た後だと、散りばめてある目眩しとか、決まりごとが分かったし、その間に本作のあれこれを反芻する時間も確保できたので、面白さが尚よくわかりましたよ。
女性の成長と解放が描かれていると思っていたのですが…まあ確かに女性の成長と解放ではあるんですが、これは女性に限らず、保護者から保護されてる立場の者すべてが対象で、見えなかったものが見えるようになり、知らなかったことを知り、世界の広さとか、善と悪(モラルと欲望?)とか、自然や社会の摂理なんかを理解すると、それが翻って自分自身を理解することにもつながって、真の「自立」に至る…ってことなのでは?
白黒とカラーの違いはすごく象徴的で、主人公が保護者の設けた「箱庭」に閉じ込められている間は「白黒」。箱庭から飛び出した後は「カラー」となっていて、見えなかったものが見える状態な訳ですよ(章ごとのタイトルが白黒なのは目眩し)。でもこれはあくまで主人公の見え方を表していて、もしかすると他のキャラクターたちは見え方が「白黒」のままなのかも…。世界が「カラー」で見えない人たちこそ、すなわち「哀れなるものたち」なんじゃないかなぁ…という自力解釈に至りましたよ!
傑作か?ただのB級カルト映画か?
映画マニア的な人達からは絶賛されるかもしれないが、一般の映画ファンには受け入れられないかもしれないな。
人の尊厳、宗教、貞節、道徳感などを『ブラックジョーク』という鍋にぶち込んでごった煮にした感じ?
ネタが古すぎるかもしれないが 『ホーリーマウンテン』をちょっと思い出した。
まぁ、あそこまでめちゃくちゃではないが。
エロ満載でSEXシーンだらけだし、作り物だろうが白黒シーンで男性器が少し映る。
まぁ、社会風刺やメタファー的な映像もあり、深い意味を求めれば、いくらでも考察できるかもしれないが、ただの悪趣味な作品と言われればそれまでな気はする。
監督はその辺りの匙加減ギリギリを狙っているのだろうが。
カルトムービーに興味がある人なら観てみるのも良いかもしれないが、『アカデミーにノミネートされたまともな映画』を期待して観に行くと後悔するかも。
問違ってもカップルがデートで観に行く作品ではないな。
作品の評価は人によって大きく偏るだろうね。
一人の女性の冒険譚、成長譚としてシンプルに観た方が良さそう
19世紀末のヨーロッパなどを舞台にした冒険譚、成長譚である。こういった話の場合、主人公がなるべく無垢で無知な方が面白くなる。この映画では主人公ベラの設定に驚くべき仕掛けを持ち込み成長前と成長後の姿に最大の幅をもたせた。
もちろん彼女の冒険と絡めて昔も今も変わらない男性主体の社会への批判がされていることは読み取れる。でもこの映画で一番楽しいのは、ベラが家を離れ初めて立ち寄ったリスボンの場面。SFチックな乗り物が行き来し光と色が炸裂する魅力的な街並み。ベラとダンカンの奇妙ででも活力あふれるダンス。これはおそらく、ベラの視点で見た世界を表現しているのだろうが驚きと喜びに溢れた素晴らしいシーン群です。
その後、パリ、ロンドンと、ベラが成長していくにつれて、批判性は高まり幸福感は薄れていく。世界の実態を知り改善する意欲を持つというのは現実と折り合いをつけるということだからプリミティブな生命力の輝きは失われていくということなのかな。
気づいたこと。ゴッドウィン・バクスターはベラを救命し作り変えた人で、ベラからはゴッドと呼ばれ慕われているのだけど、一から彼女を創造したわけでもなく彼自身の命にも限りがある。つまり本当の神ではない。一方、この映画ではチャプター毎に魚眼レンズで撮影した不思議なシーンが挟み込まれる。私の考えではあれが神の視点ではないか。例えば足を撃たれた将軍を皆で引きずっているという何気ないシーンばかりなのだが、神はそういった平明な日常もちゃんと見ているっていうことではないか。なぜ神の視点を挟み込んでいるかはきちんと説明できないがなんとなくこの映画では必要な感じがしないではない。
そしてエマ・ストーン。アカデミー賞などは正直どうでも良いが、この複雑な構成の長丁場の映画にほとんど出ずっぱりであのテンションの演技を続ける集中力と体力。凄まじいものである。
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