劇場公開日 2024年1月26日

「人造人間ベラのヨーロッパSEX漫遊記」哀れなるものたち よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人造人間ベラのヨーロッパSEX漫遊記

2024年2月15日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

結論から先に言うと凄まじい傑作、封切り間近だからと去年の東京国際映画祭でスルーしたことを激しく後悔しました。まあこんなほぼ直訳の邦題はオシャレではあるんですが映画の内容自体は判らないので私ならこう名付けます。

“人造人間ベラのヨーロッパSEX漫遊記”

直接説明はないですが舞台は19世紀のヨーロッパ・・・ですが世界史の教科書で見覚えのあるそれかと思いきやヨルゴス・ランティモスが描いてみせるのは『ブレードランナー』みたいなスチームパンクなマシンが日常に溶け込んでいる全然デタラメで美しい世界。この辺りは18世紀を舞台にしながら風景にもサントラにも違和感が滲んでいた『女王陛下のお気に入り』からさらにシュールさに磨きがかかった感じ。お話を書くと野暮にも程があるので似たような作品で喩えると、序盤は『フランケンシュタイン』、中盤は『エマニエル夫人』、終盤は『ファントム・スレッド』もしくは『バービー』という感じ。とにかく執拗に繰り返される性描写が赤裸々にも程があってしかも無修正、まさかエマ・ストーンがシルビア・クリステルを軽々と超えてくるとは誰も期待していなかったことでしょう。というかこれがそのままスクリーンで上映出来るならモザイクとかボカシとかもう要らんってことですよ。そこだけ切り取っても画期的。ホンマ『ブギーナイツ』とか『ぼくのエリ』とかも無修正でスクリーン上映して欲しいです。

『女王陛下の〜』は登場人物の誰にも感情移入出来ない物語で魑魅魍魎達の七転八倒を半笑いで眺めるようなトラジコメディとなっていましたが、こちらは奔放極まりないベラの快進撃がとにかく痛快で最初から最後まで楽しくてしょうがないです。ほとんど全てのカットが斬新かつ美しいですが、特に印象的だったのがベラが訪れたリスボンの街角で弾き語りで歌われるファドに心を奪われるシーン。Carminhoが歌う“O Quarto”(部屋)という曲ですがその歌詞がベラの境遇と共振する様が物語のフックとなっています。

美しくも無知なベラを誘惑したはずが壮絶な速さで世界を理解していくベラに翻弄されて身を持ち崩していく胡散臭い弁護士ダンカンを演じるマーク・ラファロが開陳するヘタレぶりも見事ですが、やはりベラの創造主たるゴッドことゴドウィン・バクスター博士を演じるウィレム・デフォーの存在感が圧巻。自らも父によって人体実験の限りを尽くされたボロボロの肉体を引きずりながらベラに惜しみなく愛を注ぐマッドサイエンティストという常軌を逸したキャラクターを演じられるのは確かにこの人しかいないでしょう。

予告を見た瞬間にこりゃ『フランケンシュタイン』オマージュだなと思ったのでちょうど再上映中のヴィクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』を先に観ておいたのですがこれは大正解。村にやってきた映画『フランケンシュタイン』を観て怪物に魅せられた少女アナが無邪気な遊びを繰り返した末に自分を閉じ込めている見えない壁にぶつかり父と対峙する物語が見事にシンクロしていました。

色々楽しい作品ですがR18+なのでどエゲツナイものがバンバン映り込んでいますし、ベースにあるのが痛烈な社会風刺ですのでそんなワサビが苦手な人は近づかない方がいいかとは思います。

よね