「『ベラ・バクスター』の世界を知る冒険」哀れなるものたち ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
『ベラ・バクスター』の世界を知る冒険
主役の『ベラ・バクスター』を演じる『エマ・ストーン』は
自身がプロデュースも兼ねる熱の入れよう。
それだけ本作の映画化を強く願ったということだろう。
そこで魅せるのは役者魂。
〔女王陛下のお気に入り(2018年)〕より更に過激に。
よくみればレイティングは「R18+」とされており、
予告編でもその類のシーンは一切無かったので
かなり虚を突かれた思い。
もっとも、余禄として嬉しくはあるのだが。
とは言え本作のテーマは女性の自立と解放。
型や枠に嵌めようとする社会や世間、
なかんずく男性からの。
綺麗ゴトを言い、
最初は自由に振る舞わせていても、
次第に束縛が強くなるのは、ありがち。
または最初から
女性を自分の所有物としか思わない者まで。
そこからの解放が終幕に向け、
うねるように紡がれる。
本編は若い女性が橋の上から身を投げるシーンで始まる。
彼女が次に目覚めた時には、
全ての記憶はおろか、脳もまっさらの状態。
そこから、驚異的なスピードで
しかも貪欲に知識を吸収する。
そこで再び『エマ・ストーン』の演技の素晴らしさである。
とりわけマリオネットのようなぎくしゃくとしたムーブと、
舌足らずのしゃべり方、
好奇心丸出しの表情も、観客を圧倒。
劇中ではそれを蠱惑と捉え、
入れ込む者が現れるのも納得なほど。
一旦死んだ『ベラ』を再生させたのは
医学者の『ゴドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)』。
彼の風貌は『フランケンシュタイン』が生み出した
『Frankenstein's monster』のよう。
それは彼もまた、父親から虐待に近い抑圧を受けて育ったことの結果。
しかし自身が生み出した創成した女性には『ベラ』との名を付け、
先のクリチャーが最後まで名無しの『?』だったことに比べ雲泥の差。
既にして、ハッピーエンドは約束されていたのだろう。
カラダそのものは最初から大人の姿。
一方で精神は幼いまま。
最初は子供らしい残虐さが
次第に憐みの心と共に
他人に感情移入できるまでに成長を遂げる。
その過程がユーモラスなエピソードで語られ、
観る側は思わず哄笑してしまう。
舞台の設定は「ヴィクトリア朝」を模したロンドンも、
建造物や交通機関や医学技術は時代を超越。
そんななか、幾多の失敗も繰り返しながら貪欲に知識を吸収、
セルフプロデュースもしていく主人公の姿は
現代に生きる我々の目から見ても
ほれぼれするほどのロールモデルかもしれない。
ただ寓話としてみた時には
〔ピノッキオの冒険〕の近しい
ストーリーと印象を受けもする。
導く人物により、
人はどうにでも染まる、との。