劇場公開日 2024年1月26日

「技術の集積」哀れなるものたち TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5技術の集積

2024年1月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

さて、仕事が忙しく正月休み以来、私にとっては久しぶり(3週間ぶり)となる劇場鑑賞は『哀れなるものたち』です。先日発表された第96回アカデミー賞ノミネーションにおいて、実に11部門における選出となりました。そして鑑賞してみればなるほど納得の作品です。とは言え、いきなり「作品賞」「監督賞」という印象よりかは、むしろ斬新ながら間違いないと感じることが出来る「技術の集積」による出来と評価だと、頷くことが出来る間違いなさを感じます。
まず「脚色」です(とは言え、私は原作未読です)。ベラ(エマ・ストーン)という「奇妙でありつつ、目を離せない魅力」の女性には隠された過去があり、また独特な世界観が生む特異な人物です。近寄る男性たちは「器量がよく、そして無知」なベラをコントロールしようとしますが、彼女は人形ではありません。彼女を通して見えるもの、経験すること、出会う者たちと行き着く先は波乱万丈ながら、根本的にはとてもシンプルな話にまとまっています。そして、男たちの「男性性」丸だしな言動、また彼らが信じる常識、倫理から宗教に至るまで「男たちの都合や事情で作られたもの」であることなど思い知らされる内容で「50代男性」の私は身もだえつつも感嘆せざるを得ません。
そして、この独特な世界観を作り出す美術や衣装、メイクアップ・ヘアメイクがとても独創的であり、それを際立てる撮影・編集ですね。敢えて視野を狭めたり、魚眼レンズを使ったりと視点によって「どう見えるのか」を鑑賞者に意識させつつ、違和感を不快感にしない切り替えなどは編集の妙かと思います。
主要賞の方は強いライバルがあることもあり、出来るだけ多くの「技術賞」を獲得してもらいたいというのもありますが、結局のところ流石のヨルゴス作品は手練れな一作に仕上がっています。独特な印象に左右されることなく、まさに現代的な作品として一見の価値ありだと思います。

TWDera