劇場公開日 2024年1月26日

「【哀れになる映画】」哀れなるものたち てっぺいさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【哀れになる映画】

2024年1月28日
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鑑賞方法:映画館

大人の体で新生児の脳を持つ突拍子もない設定を、痛烈な社会風刺に転じつつ、家族愛に帰着させてしまう濃厚な一本。エマ・ストーンの体当たり本気度MAXな演技は、見逃すと本当に哀れ。

◆概要
【原作】
アラスター・グレイによる同名ゴシック小説
【脚本】
「女王陛下のお気に入り」トニー・マクナマラ
【監督】
「女王陛下のお気に入り」ヨルゴス・ランティモス
【出演】
「ラ・ラ・ランド」エマ・ストーン(プロデューサーも兼任)
「スパイダーマン」ウィレム・デフォー
「はじまりのうた」マーク・ラファロ
【原題】
「Poor Things」
【公開】2024年1月26日
【上映時間】142分

◆ストーリー
不幸な若い女性ベラは自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスターによって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカンに誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。


◆以下ネタバレ


◆エマ・ストーン
本作は何よりも彼女の演技が魅力。大人の体に子供の脳が移植された時、どんなことを考え、どんな言葉を発し、どんな動き方をするのか。皿を割りながらゴッドの帰宅に飛びついて喜ぶ姿は赤子そのもの。リスボンで楽器と歌声に本能での悦を見せるあの表情がたまらない。ダンカンが半ば強制的にフォローに入ったあのダンスシーン(ヨルゴス監督作にはお決まり)も、少しいびつな音楽とステップとともに、ベラが音を楽しむ本能的な姿が見事(ベラに好色を示す者たちに見境なく飛びかかるマーク・ラファロもよかった笑)。そして何より、体を張った演技。“幸せな発見をした”と、初めての性に目覚めたあの表情も良かったし、モノクロからカラーに変わる、ベラの自由が始まったことが視覚的にも表現された“熱烈ジャンプ”(Furious jumpingと言ってた)から、その後の脱ぎっぷりに圧倒される。「女王陛下のお気に入り」撮影中に、ヨルゴス監督からこの企画を持ちかけられていたというエマ。信頼するチームと、ただの娼婦ではなく、赤子の脳で世界に飛び出したベラがたどる必然の世界観を表現する上で、彼女が望んで選んだ選択肢だったかも知れない。いずれにしても、その本気度がスクリーンからこれでもかと伝わってきた。

◆哀れなるものたち
屈託のない視点で世界を見ながら、時には喜びを、時には負の感情を受け取っていくベラ。リスボンでは道端での口論、アレクサンドリアではまさに哀れなまでの貧困に接し、嫉妬に震えるダンカンにはパリでついに愛想を尽かす。性交に悦を感じ、それを生業とする事は彼女にとって自然な事であり、それに激怒するダンカンは、一見当然な男の感情とおぼしくも、恐ろしくちっぽけに見えてくるのが本作ならでは。娼館で彼女が言った“女性から選ぶ事はできないの?”は特に、昔はおろか現代でもブッ刺さる、男女平等の理念を訴えるキラーワードでもありハッとさせられた。世界を知ったその先に彼女が向かった自らの出自には、ベラを“領土”と呼び、従者を冷遇する男の姿。世界の貧困や家父長制、男がいかに哀れな生き物か…ベラの視点を通して炙り出されていく“哀れなるものたち”が、そのまま本作が発する痛烈な社会風刺にもなっていた。

◆家族愛
世界を見たいというベラに、そっとお金を渡し送り出すゴッド。“情が移った”“科学者として失格だ”のセリフには、ゴッドがベラを娘のように思う表現が見え隠れ。ベラはベラで、いつもハガキをよこしながら、ゴッドの窮地には飛んで駆けつける。常にベラの身を案じていたマックスは娼婦となった彼女も受け入れる。死へと向かうゴッドに寄り添うベラとマックス、そんな3人の姿はもはや家族そのものだった。突拍子もない設定や、内包する社会風刺もさることながら、いびつながらもそんな家族愛に帰着させている事が本作のミソ。解剖動物や解剖人間に囲まれた、それだけを見ると“哀れなるものたち”でしかないラストは、本編を通してみると夫もパートナーもいるベラが、“本を読む”自由も勝ち取った、幸せの光景になるのがまた本作ならでは。独特の色彩、映像表現もありつつ、鑑賞後の余韻が延々と続く、なんとも見応えのある作品でした。

◆関連作品
○「女王陛下のお気に入り」('18)
本作と同じ監督、脚本家で製作され、エマ・ストーンも出演した作品。主演のオリビア・コールマンがアカデミー主演女優賞を受賞している。ディズニープラス配信中。
○「クルエラ」('21)
ディズニーキャラクターの実写化。第94回アカデミー衣装デザイン賞受賞作品。エマ・ストーン主演、本作と同じ脚本家、同じエマのメイク担当。ディズニープラス配信中。

◆評価(2024年1月26日時点)
Filmarks:★×4.2
Yahoo!検索:★×3.1
映画.com:★×4.1

てっぺい
てっぺいさんのコメント
2024年2月9日

ありがとうございます!
まるで娘を送り出し、帰りを待つ父親そのものでしたよね。
奇をてらっているようで、真のしっかりした作品でした。

てっぺい
humさんのコメント
2024年2月9日

こんにちは。
心配だが、冒険させる父性、こっそりお札を仕込むシーン、私もじんとしました。
その愛に育まれて、要所にやさしい気持ちを返すベラにも。
はちゃめちゃな世界のようで、感じるものがしっかりある奇妙で衝撃的で前向きな物語を映像で観る体験でしたね。

hum