劇場公開日 2024年1月26日

「未来のイヴ」哀れなるものたち レントさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0未来のイヴ

2024年1月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

知的

難しい

フランケンシュタインの怪物のように甦ったベラ。ベラを甦らせたゴッドはさながら理想の女性像を求めるピグマリオンといったところか。
確かに体は大人の女性、心は赤ん坊で従順、これほど男にとって理想的で都合のいい女性像はないかも。

まだ幼い彼女は好奇心から広い世界を見たいといい、駆け落ち同然で家出をする。そして性的快楽や美食に目覚め、世界のすばらしさを知る。
それを与えてくれるダンカンに依存していたベラだが、世界の醜い部分を知ってショックを受ける。彼女の中でこんな社会を変えたいという気持ちが芽生える。そのためには多くを学びたい、とりあえずそのための生活資金として売春宿で働き始める。そんな彼女に未練たらたらのダンカンは帰国もせずに娼婦館の下で地団駄踏んでおります。

印象的だったのは彼女が娼婦として働きだしたころから見違えるようにきれいで知的な女性に見えたこと。今まではどこか男に依存して生きてきた無知で愚かな女性というイメージがガラッと変わる。自立して革新的な考えに啓発された彼女が本作で一番輝いていた。彼女は男性優位の娼婦館でもそのシステムに疑問を感じて意見したりする。女性に相手を選ばせるべきではないかと。

同僚の女性と社会主義者の集まりに参加するという彼女たちの後ろでなんとまあ無様な姿をさらすダンカン。ダンカン、この野郎。

ベラは純粋無垢なので世間体とか気にしない、売春をやることにも何の躊躇もない。むしろそれを責め立ててる男の方が滑稽に見えてくる。男社会では売春婦、娼婦といえば蔑みの目で見られたりする。でもそれは男目線、結局男が女性に貞淑を求めるのは己の独占欲を満たしたいがために過ぎない。俺だけのものになれ、俺にだけかしづけ、俺以外の男とするな、である。なにか道徳的倫理的に売春を責めているような顔をして結局は自分の独占欲を満たしたいだけなのである。それはダンカンや元旦那の姿を見れば明らか。

本作では観ているものに明らかに不快感を与える性交シーンが延々と描かれる。立派な身なりをした男たちが変態的な行為を要求したり、子供の性教育とばかりに行為を見せたり、そしてそれを真剣にメモる男の子の姿。ここまで男社会をこけおろしてるのもすがすがしいほど。
そして娼婦という仕事がそもそも恥ずかしい仕事なのか蔑まれる仕事なのか、ということにも投げかけてくる。やはり自分も心のどこかで娼婦を見下している。憐れだと、ほかに仕事がないから仕方なくやらざるを得ないのだろうと。そんな考えにも純粋なベラは投げかけてくる。そもそも憐れんでる時点で見下してるのではないかと。そんな風に本作は我々の価値観にもゆさぶりをかけてくる。

本作のタイトル、「哀れなるものたち」の正体は作品の最後の最後に分かる。この男社会を変えるには革新的な外科手術が必要ということなんだろうか。男が追い求める理想的で都合のいい女性像として創られたベラがその男社会を変えていくことを予感させるラストには思わず膝を打ってしまった。

ちなみにエマ・ストーンがエマーソンを読む、しゃれでしょうか。一人で女性史を演じきったのは素晴らしかった。個人的には「バービー」のマーゴット・ロビーと賞レースを競い合ってほしかった。この監督らしいファンタジーでグロテスクな怪作。

レント
2024年1月30日

レントさん、コメントありがとうございます!この監督の映画を見たのは初めてです。女王陛下・・・などから見てみたいと思いました

talisman
こころさんのコメント
2024年1月28日

レントさん
「 聖なる鹿殺し 」・「 籠の中の乙女 」、検索してみたのですが、ちょっとホラー要素多め、アクもかなり強そうな作品ですね。ホラー苦手なのでハードルが高いです。。
同一人物です 🥲
ログイン更新に失敗し、意に反して新アカウントに 😭
引き続き宜しくお願い致します。

こころ
こころさんのコメント
2024年1月28日

レントさん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
ヨルゴス・ランティモス監督作、「 女王陛下のお気に入り 」に次いで私は2作目です。よく王室の許可が下りたと感心する程にアクの強い作品でしたが(笑)
確かに本作の方が取っ付き易いでしょうね。
本作はおどろおどろしさ薄めでした。
エマ・ストーン、本領発揮でしたね ✨

こころ
こころさんのコメント
2024年1月28日

レントさん
ラストの解釈、そういう事だったのですね。納得です‼︎

こころ