劇場公開日 2023年7月22日

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「昭和日本に似たノスタルジーを感じさせる」少年 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0昭和日本に似たノスタルジーを感じさせる

2023年7月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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若い世代で歴史に関心がない人などはひょっとして知らないかもしれないが、日清戦争後から第二次世界大戦終結の期間(1895~1945年)、日本が台湾を統治していた時代があった。1983年に製作された「少年」の時代設定は1960年代なので、主人公の少年アジャと家族が暮らす一軒家の造りや屋内の調度には、昭和30年代頃の邦画で目にする日本家屋に似た趣が感じ取れる。

原作は、のちにホウ・シャオシェン監督作品で数多くの脚本を手がけることになるチュー・ティエンウェンが書いた短編小説。ホウ・シャオシェンの監督デビュー作「ステキな彼女」(1980)から撮影を担当するチェン・クンホウの監督作品となる本作に、ホウ・シャオシェンが製作として関わり、ホウ・シャオシェンと原作者チュー・ティエンウェンが共同脚本で初めて組んだことで、以降のホウ・シャオシェン監督+チュー・ティエンウェン脚本というコンビにつながったそう。

物語は、未婚の母シウインが幼い息子アジャを連れて見合いの席に臨み、かなり年上の公務員ターシュンとの縁談がまとまるところから始まる。アジャは弟にけがをさせたり、悪ガキ仲間が盗んだ本で近所の子供相手に貸本商売を始めたりと、しょっちゅう問題を起こしては母親を悲しませるのだが、心優しい父親に実の息子のようにかわいがられ、守られて育っていく。

ストーリーテリングでちょっと面白いのは、アジャの成長と家族のドラマに、向かいの家の娘でアジャと同級生の女の子が成人後に回想するナレーションが適宜挿入されること。これは女性作家が手がけた原作小説の語りを尊重したのだろうと推測される。

アジャの折々の言動には共感しづらい部分もあるが、未成年の頃の鬱屈した感じや、家や学校の決まり事に反発したくなる衝動は、時代や国を問わず通じる要素かもしれない。

余談ながら、本作の舞台である淡水には2017年に旅行で訪れたのだが、昨今はすっかり観光地化していて、本作の中に収められた昔ながらの海辺の町とはずいぶん趣が変わっている。台北の中心から電車で1時間程度で行けるので、日本でいえば東京から横浜の距離感に近いだろうか。観光スポットが割とコンパクトにまとまっていて(自転車をレンタルして回るのもいい)、台北から近いという点も含めておすすめです。

高森 郁哉