「白百合の如く」あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
白百合の如く
見る前は、何とベタな話や設定だなぁ、と。邦画いつもながら。
しかし実際見てみると、戦争/反戦映画としてもしっかり作られ、何より白百合の花言葉の如く。
若者客媚びやあざとい感動押し売りのように見えて、ベタさが寧ろ真っ直ぐに。
昨冬予想以上の大ヒット。アニメばかりヒットする邦画界だが、良きものにはちゃんと客が入る。
戦時中にタイムスリップしてしまった現代の女子高生、百合。
どうやって?…というSF考証云々より、何故彼女がタイムスリップしたか、ヒロインの設定こそが意味を持つ。
父親は他人を助ける為に亡くなり、残された自分と母親は貧しい暮らし。
母親はバイトを掛け持ちして女手一つで必死に育ててくれているが、そんな母に百合は苛立ちや不満をぶつけてしまう。
学校にも居場所が無い。クラスメイトにはからかわれ、友達もおらず、進路も決まっていない。
人生や将来、全てにうんざりし、生きる意味すら見出だせない…。
そんな時起きた信じられない体験。出会い。
それらを通じて…。
食堂の女将、ツル。
家族は亡くし、女手一つで切り盛り。訳ありの百合を住まわせ、仕事も与えてくれる。
母親のような面倒見の良さと温かさ。実在の人物がモデルで、知ってる人ならピンとくる。松坂慶子が好演。
食堂に材料などを届けに来る女の子、千代。
年も近く、自然と仲良しになる。活躍著しい出口夏希がフレッシュに。
“お腹ペコペコ隊”の若者たち。ムードメーカーの石丸、年少者の板倉、年長者で妻子持ちの寺岡、堅物の加藤。
陽気で明るく楽しく、伊藤健太郎らが生き生きと。
でも何より大きかった出会いは…
一人の青年・彰。
この時代に来て困り、ふらふらになっていた所を最初に助けられた。
その優しさ、実直さ、精悍さ。
心の中で彼の存在が大きくなり、次第に惹かれていく…。
元の時代では知る事が出来なかった事。人の優しさ、日々の営みの些細な幸せ、一生懸命何かをやる事、素朴だけど美味しい食べ物、人を思う事…。
元の時代でもそれらはあったかもしれない。自分がただ勝手に拒んでいただけ。
自分は何てわがままだった。バカだった。
それらを教えてくれたこの不思議な体験、出会い、この時代。
まさかこの時代に…。
“戦争”という時代。日本中が喘ぎ苦しみ、何もかも見失っていた時代…。
石丸や大切な存在になった彰は覚悟を決めていた。
彼らは、特攻隊員であった…。
小さな戦闘機に乗って巨大な敵艦に体当たり。
自ら命を捧げる事で、お国を守る。大切な人を守る。日本は必ずやこの戦争に勝利する。
今だから言える。そんなの間違っている。無謀で、考え方もやり方も狂っていた。
が、当時はそう信じて疑わなかった。そういう時代だったのだ。
当時も少なからず疑問を感じていた人たちはいた。だが、それを口にする事や自由思想は絶対に禁じられていた。場合によっては罪にも問われ…。
そんな散らばっていた疑問を、現代人を通して投げ掛ける。訴える。
原作はSNSを中心に話題となったベストセラー小説。原作者は戦争博物館で受けた衝撃、元教師で現代の若者が戦争や特攻隊を知らぬ事に触発されて執筆したという。
今の時代、戦争の時代に何を思うか…。
百合の言動は当時だったら非国民。だが、今だからこそ響く。
戦争に意味があるの…?
お国や大切な人の為に命を捨てる事が…?
出撃前夜、年少者の板倉が逃げ出す。故郷には家族を亡くし、自殺しようとした許嫁が…。彼女の為に生きたい。特攻で守るのではなく、側に居る事によって。
腰抜け、生き恥呼ばわり。
生き恥って何…? 側に居て守る事、共に生きる事、それこそに意味がある。
百合の“時代違い”の言動。軍人家系の加藤やある時警官に糾弾されるが、彰は百合の言動を一切咎めない。
百合は真っ直ぐだな。
空襲で火の海となり、ツルを助けに行こうとした百合に思わず本音が漏れる。
命が一番だろ!
特攻隊員で、これから命を捧げようとしているのに…?
彰は早稲田大生で、哲学専攻の秀才。頭では分かっているのだ。この時代や戦争を…。
自分たった一人の力でどうする事も出来ないのも分かっている。ならば、この心で。
思う。願う。誰か、たった一人の為に。
彰は百合に似ている妹を重ね、妹のように思う。
が、それは本心の照れ隠し。ラスト、時代を経て込められた手紙には…。
もし、生きる時代、出会った時代が違っていたら…?
いや、この時代、不思議な出会いだったからこそか…?
時に時代や運命は不条理で残酷だ。それらに翻弄されながらも、純粋無垢な思いは尊い。
体現した二人。
福原遥の魅力は眼福もの。
水上恒司の佇まいは劇中さながら頼もしい。
ありがちな若者純愛ストーリーに見えて、時代設定や考証は本格的。戦争を知らぬ今の時代の若者たちが作品を通じて知る事が出来る。
先述した通りベタさを実直に、監督の手腕も真摯。
総じて、思ってた以上に良かった。全く飽きやダレる事もなく見れた。
強いて言うなら、冬ではなく夏に公開すべきだった。
かき氷。幸せの味。
二人だけの場所。満面に白百合の咲く丘。
元の時代に戻って。母や今生きている事、幸せに感謝を。
進路も決めた。あの人が果たせなかった夢を…。
あなたが教えてくれた生きる意味。与えてくれた想い。
それらを忘れず、胸に。心に。
精一杯、生きていきます。
早速にご返信いただきましてありがとうございました😊
wikiで調べましたら、岸惠子さんが旅館の女将されていた作品を観た記憶があります。
戦後も慰霊の為の活動もされて有名な方らしいですね。
ありがとうございました😊
共感ありがとうございます
作品分析、作品考察、流石です。お見事です。
接続詞を極力使わず、短い文章で綴っているので、
レビューというよりは素敵なポエムという雰囲気を感じました。
近大さん、結構なロマンチストですね。
本作、真珠湾攻撃の日に公開されました。
この手の作品は、終戦の8月公開が多いですが、
私は、真珠湾攻撃のあった12月もアリだと思いました。
若い世代の人達に特にお勧めしたい作品です。
では、また共感作で。
ー以上ー