劇場公開日 2023年12月8日

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「主人公の父親への思いはどうなった?」あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0主人公の父親への思いはどうなった?

2023年12月23日
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終戦間際にタイムスリップした現代の女子高生が、令和の時代の歴史観や価値観で、太平洋戦争や特攻を否定したり批判したりすることは理解できる。
だが、警察官には、そうした思いをぶちまけるのに、想いを寄せる特攻隊員には、「あなたが死んでも日本の敗戦は変わらない」と言うだけに留めるのは、どうしたことだろう?
仮に、「戦争は無意味で、特攻は無駄死にだ」みたいなことを特攻隊員に言ったら、その時点で恋愛感情など吹き飛ぶかもしれないが、相手に本当に生きていてほしいのなら、どんなに嫌われても特攻を思い止まらせようとするのではないか?
「愛する人を残して死ねない」という気持ちは誰でも同じはずなのに、1人の逃亡兵だけが特別扱いされ、仲間が彼を見逃すシーンにも違和感がある。
誰でも、そんなに簡単に特攻を免れることができるのなら、主人公の恋人も逃げればいいではないかと思えてしまうのである。
見せ場の一つである空襲のシーンのチグハグさも気になる。
昼だと思っていたら、いつの間にか夜になっていたり、田舎道を歩いていたと思ったら、空襲の標的となっている街中にわざわざ突っ込んでいったり、食堂の無事を確かめようとしていたのに、食堂とその周辺が完全に無傷だったり、足を怪我したはずなのに、ピンピンしていたりと、前後の場面の繋がりがおかしいところが多過ぎる。
その一方で、ラストでは、平和な時代に生まれ、自由な社会で生きることができる幸運と幸福を、しみじみと味わうことができる。
それは、ウクライナやガザの現状を知るにつけ、「戦争」というものが、決して遠い昔の出来事ではなく、身近な問題として感じられるようになったからでもあるだろう。
ただ、序盤で、人助けで死んでしまった父親に反発していた主人公が、終盤で、その思いをどのように変化させたのかが描かれなかったのは、作劇上の欠陥であるとしか思えない。
国のため、愛する人のために自らの命を捧げた特攻隊員と出逢って、同じように、他人を助けるために命を落とした父親への思いが変わらなかったはずがなく、ここは、そうした自己犠牲に対する感謝であるとか、尊敬であるとかの思いをしっかりと描くべきだったのではないだろうか?
それは、特攻を美化することにも、賛美することにもならないだろう。
主人公の父親への思いは、この映画で一番の伏線だったはずなのに、それが回収されなかったのは、残念としか言いようがない。

tomato
tomatoさんのコメント
2023年12月26日

コメント、ありがとうございます。
主人公が現代に戻ってきてから、父親の遺影が何度か映し出されるので、私も、まったく同じように思いました。
ただ、そうであるならば、そうした父親への思いを、台詞なり映像なりではっきりと描いてもらいたかったと感じた次第です。

tomato
kyunthiaさんのコメント
2023年12月26日

父親への思い

私は、現代に戻った百合が、登校前に父親の遺影を見つめるシーンで回収されたと感じた。

父親の顔に、特攻隊員たちが重なったのでは無いだろうか
自分の命に蓋をしてしまうほどに
目の前で溺れる子を救いたい
絶体絶命のこの国を救いたい
その純粋で一途な優しさに百合は気付くことができたのではないかと思うのです。

kyunthia