劇場公開日 2023年8月4日

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「 ゲイのカムアウトにおいて最大の敵(難関の壁)が、なんと身内しかも...」インスペクション ここで生きる クニオさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 ゲイのカムアウトにおいて最大の敵(難関の壁)が、なんと身内しかも...

2023年8月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

 ゲイのカムアウトにおいて最大の敵(難関の壁)が、なんと身内しかも実の母親だったと言うとんでもない現実に基づく映画。LGBТQにおいてその事実を隠して生きてゆく困難とカムアウトして一部の差別を受け入れるのか、の選択なんてそもそも酷い話です。セクシャリティの多様をただただ認めてくれればいい望むべき社会は米国とてもまだまだで、ましてや日本なんぞ最悪レベル。なにしろ「見るのも嫌だ、隣に住んでいたら嫌だ」とまで首相秘書官が言ってるレベルですから。よりによって海兵隊と言うマッチョ信仰の頂点に挑み、当然に過酷な仕打ちが待ち構えていたけれど、地獄の訓練を耐え抜いた挙句の寛容が待ち受けるとは驚き。ラストの母親との改悟で大団円と思いきやの拒絶で終わるとは。

 本作でデビューのエレガンス・ブラットン監督自身のこれまでの実体験をほぼそのまま描いた作品とか。事実、作中で海兵隊の中でも記録映像の方面に進みたいとセリフにでますから。時代は微妙に2005年のイラク戦争真っ只中。以降米国防総省は、兵士が同性愛者であると公言することを禁じた米軍規定を撤廃し、同性愛を隠すことなく入隊できるようになった。これまた本作のセリフに「ゲイを排除してたら隊員が足りない・・」とも告白しているから。よって本作はそれ以前ゆえ、ゲイであることによる差別と虐めが本作の要となる。

 米国映画で数多観てきた軍隊での激しい特訓風景、本作はその大半をこれに捧げる構成。冒頭、実話に基づく・・と明記しているように、描写は極力誇張を排している。逆に言えば鬼上官の侮辱の嵐もある意味ありきたりで、班長に任命された白人からの虐めもシャワーシーンと射撃シーンの僅か2回のみ。イスラム教の仲間のエピソードも中途半端。意外と優しい副上官との交流も中途半端。ラストに主人公を擁護する鬼上官シーンもあっさりしたもの。よって監督は母親の理解がない事実のみを最大限に示す意図と思われる。もう少しエピソードを膨らませて欲しかった。

 主演のジェレミー・ポープ、どこかで観た覚えが・・そうNetflixの「ハリウッド」に出てましたね。キレイめのアフリカンで、耐えに耐える役が悲壮でもあるものの、妙な色気をうっかり出してしまう辺りの説得力が残念ですね、監督のせいですが。母親役のガブリエル・ユニオンや鬼上官役のボキーム・ウッドバインもベテラン中堅スターで、どこかで・・が観ている最中も頭が廻ってしまう始末。

 海兵隊志望に至る理由は、「友達はムショに入るか死んでいる」厳しい現実が総て。ならば監督の体験をベースに、行き場の無い奴等としての軍隊、壮絶虐めと仲間との連携、そしてラストの寛容と拒絶をクライマックスに劇的に描けば面白くなったのに。要は、真面目過ぎました。

クニオ