「価値観>親子関係」インスペクション ここで生きる ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)
価値観>親子関係
家を出て10年間路上生活を送っていた青年エリスが海兵隊に入隊するため必要な出生証明書をもらいに、実家へいく。母は敬虔なキリスト教徒で、ゲイである息子を決して受け入れようとしなかった。母からは「ゲイなのに海兵隊に入れるわけがない」と否定される。
入隊後は自由を奪われ、イジメのような厳しい訓練が続いた。電話の時間も限られ、各自は家族や恋人に電話をし、主人公は母にかけても繋がらない。
同期に祖父が有名な海兵隊員だという白人がおり、マイノリティや人の弱みを見つけては陰湿なイジメをする。特にシャワータイムにゲイだとバレてしまってからはターゲットになってしまった。また溺れた人を助ける水中訓練が行き過ぎ、エリスは本当に溺死寸前になる。
そんな中にも彼を庇ってくれる教官が見つかる。その教官もまたゲイであることを周囲に隠していた。ある時、携帯電話で妻と揉めているところを見かける。訓練も後半となり修了が見えてきた時、教官の部屋へ行き、携帯電話を貸してくれるように頼む。そして母に修了式に来てくれるようお願いするのだった。
迎えた修了式の日、迷っていた母も修了式に出向き、息子の晴れ姿を見る。式の後、他の修了者同様にレストランでお祝いの食事をとり、息子が「僕のおごりだ」と言う。母の楽しそうな様子を見て、エリスも幸せな気分になる。しかし母はエリスがもうゲイではなくなったと勘違いしていたのだった。真実を知った途端に母は怒り出し、レストランを去ってしまう。
追ってきた息子に対して、母はいつもの怒りの表情に悲しさをまじえて「受け入れられない」と告げた。
厳しい特訓に人種差別も加わり辛い訓練生活を耐え抜き、徐々に増えた仲間や理解者もでき、自分に自信が持てるようになった主人公だったが、母から自分を認めてもらうことはならなかった。若くして母親となってしまった彼女は、学歴はなくとも現在拘置所の職員として働くまじめな人物で、それがゆえに保守的な価値観から出られないのだろう。
テンポもよく、中だるみもなく、余韻があり、面白かった。