「挫けないことの対岸」インスペクション ここで生きる うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
挫けないことの対岸
本作のPR記事ではエリスが性的マイノリティであることが強調されているが、ひとたび海兵隊の訓練施設の中に入った訓練生達は皆、成績や素行はもちろん各自のマイノリティ要素や弱点を日々あら捜しされ、攻撃される。訓練所の慣習を「誰もが味わい得る苦難」として描くことで、本作がエリスだけの物語に留まることなく普遍性のあるドラマになっている点に魅力を感じた。
エリスが自分を認めて欲しいと母に度々縋る姿は、一途で純粋なものだった。子供が親に向ける自然な欲求でもあり、かけがえのない人にこそ自分のありのままを受け入れて欲しいという願いでもあるのだろう。
ただ、母がエリスを認めないのは信仰ゆえで、キリスト教徒としてのルールに従っていることを踏まえると、エリスの要求は彼女の秩序や道徳を破壊することに等しいのではないかと思えた。彼女もまた楽ではない人生を歩んで来たことが窺える人物で、彼女の人生を支えてきた価値観は彼女にとっての尊厳でもあるのではなかろうか。
認めるか認めないかの二択に徹し、互いの主張の背景を理解しようとすることや落としどころを見つける作業が欠けたエリスと母の平行線のやりとりは、痛々しくもあった。
10年間のホームレス生活、訓練施設での生活、海兵隊での任期…と、決して易しくない道を歩んだエリスの「挫けない」タフさを描いた作品ではあるが、その頑なさが少し恐ろしくも感じた。
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