「「映画」としては面白い。では「実話」としてはどう?」グランツーリスモ Equinoxさんの映画レビュー(感想・評価)
「映画」としては面白い。では「実話」としてはどう?
まず、映画としてはソツなく作られていて面白いです。話もわかりやすいですし、何よりデヴィッド・ハーパーさんが最高にいい演技をしているし、ストーリー上もいいポジションです。第二の主人公と言っても差し支えないくらいこの映画はデヴィッド・ハーパーの映画です。なんなら彼が主役なんじゃないかってくらい。
CGの効果的な使い方や典型的なライバルや敵、そして主人公の成長と挫折、そこからの復帰、といった王道の展開で安心して観られます。
さて、この映画は実話であるということをウリにしており、エンドロールの際に実際の写真と映画の場面を並べてほらほらこんなに再現してるんですよってのをアピールしてますし、宣伝文句も「感動の実話」とか書かれています。
確かにヤン・マーデンボローさんは実在の人物で、GTアカデミーを勝ち抜いて実際のレーサーになった人ですが、彼は一期生ではないんですよね。映画の中ではヤンが一期生の様に描かれていますが、グランツーリスモの公式サイト(映画の公式サイトじゃなくてゲームの方)によれば、2008年、2010年にそれぞれGTアカデミーの覇者がいてレーサーデビューしています。ヤンは2011年のGTアカデミー覇者です。余談ですが、2011年は北米覇者もいてレーサーデビューしている様です。そうなると劇中の数々の描写に違和感を覚えませんか?
次に、2011年とは思いにくい描写も多く、私は割と最近の話だと思っていましたが、そうではありませんでした。12年も前の話です。2011年の現役機はプレステ3です。当時出ていたのはGT5。グラフィックは確かに当時最高峰でしたが今見るとやはり時代を感じます。その辺が最新の映像で「再現」されているのでGT7での話なのかと思ってしまいました。
またヤンの戦績もかなり異なります。クライマックスでバッシングを覆す為の起死回生の策としてのル・マン出場すると劇中では描かれていますが、実際は事故の前にル・マンに出ており、位置付けは全然違います。
この映画の第二の主人公、デヴィッド・ハーパー演じるジャック・ソルターも実在しません。モデルになった人物はいる様ですが。
ちょっと調べただけでも実際と異なる点は数多く存在しており、これを実話と断言するのはかなり違和感があります。あくまでも実話を元にした創作であって、実話ではない。いや、実話なのかもしれませんが、じゃあ、「実話」とはなんなのか。何処まで脚色して実話を名乗ることが許されるのだろうか。ということを考えてモヤモヤしてしまいました。
極論を言えば、「地球がある」「人類がいる」「M78星雲という星雲がある」という事実に脚色をして作られたウルトラマンはじゃあ「実話」なんでしょうか。もう少し史実に寄せた「女信長」ではどうでしょうか?それは実話ですか?
気にしすぎなんでしょうけど、私はこの映画は実話とは思えませんでした。そんなわけで映画単体では4点でもいいと思ったのですが、後で色々調べた時の「実話」に対する違和感が拭えず-0.5で3.5とさせていただきました。
>じゃあ、「実話」とはなんなのか。何処まで脚色して実話を名乗ることが許されるのだろうか。
ほんとそうですね。どこまでの脚色が許されるのか。結構キーとなる要素が脚色されていたような。私も少し引っかかっていました。良い問題提起をありがとうございます。