「好きじゃないことで、生きていく」駒田蒸留所へようこそ といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
好きじゃないことで、生きていく
私がこの世で一番嫌いな広告コピーがYoutubeの「好きなことで、生きていく」です。本作は、このコピーにアンチテーゼを唱えるような映画でした。素晴らしい。本作の提示する仕事観の方がよっぽど現実的で魅力的です。例え自分の知らないことであっても、自分なりに一生懸命に取り組んで「好きになっていく」過程が面白いのだと思います。
あと、私は声優オタクなので、本作の声優陣が現在第一線で活躍している実力派で固められていることにちょっと感動しました。アニメ映画は声の演技に難のあるアイドルや俳優さんが演じて作品の質を落としていることも少なくありませんからね。主演を務める早見沙織さんが歌うエンディングテーマも良かった。ただ、完全に駒田琉生じゃなく早見沙織の暴力的な歌唱力で歌われる曲だったので、歌手の名義はキャラ名義じゃなくて早見沙織本人にした方が絶対良かったのでは……?
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ウェブニュースサイトの記者をしている高橋光太郎(小野賢章)は、サイトの新しい企画である国産ウイスキーの特集を任された。ウイスキーに全く興味がなく、ただ上から振られた仕事だからと適当に仕事にあたっていたが、準備不足により取材先で失敗を連発し、取材に同行していた若きウイスキーブレンダーの駒田琉生(早見沙織)と河端朋子(内田真礼)に呆れられてしまう。ウイスキーについて勉強するため、半強制的に琉生が社長を務める駒田蒸留所で手伝いをさせられることになった。
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本作は人気のアニメ制作会社「P.A.WORKS」が製作したお仕事シリーズの最新作です。
これまでも「旅館」(花咲くいろは)や「アニメ制作会社」(SHIROBAKO)という狭い業界の話を描いてきた製作会社ですが、本作もウイスキーの蒸留所というかなりニッチなところを攻めたお仕事アニメになってますね。
私は本作のようなニッチなところにクローズアップした作品が大好きです。ニッチなテーマであることを製作陣も自覚して作っているので、初見に優しい丁寧な説明がされ、知識の有無にかかわらず楽しむことができます。例えば野球やサッカーやバスケみたいなメジャーなスポーツを題材にしている作品だと「これくらい知ってるだろ」と言わんばかりに用語が出てきたり試合が進んだりするので、スポーツに疎い私は理解できずに置いてかれることが多いので苦手なんです。
ストーリーも良かった。
ウイスキーに無知無関心な主人公の光太郎は、私と同様ウイスキーに無知な多くの観客にとって自己投影しやすいキャラクターであり、光太郎に対するウイスキーの説明がそのまま観客への説明にもなる、本作のようなニッチな世界を描く作品には無くてはならない存在です。そしてウイスキーだけでなく仕事に対しても無気力だった彼が、亡き父の跡を継いで蒸留所の社長となった琉生との交流や衝突を通じて、仕事に対する考え方を改めて成長していく。一人の人間の成長物語としてよくできていたと思います。
不満点はあんまりないんですけど、強いて挙げるならキャラクターの顔の造形の作画がところどころ崩れているように感じたところですかね。顔面がアップになるシーンでは、特にそれが顕著でした。P.A.WORKSの作品は『花咲くいろは』しか見たことないですけど、「こんなに顔の作画おかしかったっけ?」と何度か感じ、映画鑑賞のノイズになっていました。テレビサイズで観る分には問題ないけど、劇場の大画面で見ると違和感抱くのかもしれません。
仕事をする大人にこそ観てほしいアニメ作品でした。オススメです!!
こんばんは。
主題歌の名義に関して、完全に同意します。
ただ、楽曲的に琉生っぽい歌いまわしでは合わない気がするので作曲側の問題ですかね。
早見さんはキャラに合わせた歌い分けも上手ですし。