劇場公開日 2023年11月10日

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「ウイスキー造りの話を、未成年にも観てほしいという高難度の企画」駒田蒸留所へようこそ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ウイスキー造りの話を、未成年にも観てほしいという高難度の企画

2023年11月10日
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楽しい

アニメ制作会社P.A.WORKSが手がける「お仕事シリーズ」の第5弾だそう。過去4作ではそれぞれ旅館、アニメーション制作、町興し、水族館という職場や業種で働くことを通じて成長していく女性たちの物語を描いてきた。一方で今作は、駒田蒸留所の若き女性社長・琉生が幻のウイスキーを復活させるべく奮闘する姿を、取材する新米編集者・光太郎の視点から語りつつ、当初やる気のなかった光太郎が仕事の責任や面白さに気づいて成長する過程も描いていく。光太郎がいわば映画の案内役となり、蒸留所での製造工程や琉生と従業員の働きぶりを見聞きすることで、お酒に詳しくない観客にもウイスキー造りの概要を伝える格好だ。

私自身ウイスキー好きで、ニッカの余市蒸留所を訪問したこともある(大人気の蒸留所見学はあいにく予約が取れず、ミュージアム入場と試飲どまりだった)が、アニメでも蒸留所設備の質感や雰囲気がリアルに再現され、仕込みから蒸留、長期の樽熟成といった工程も分かりやすく伝えられていると感じた。

キャラクター造形に関して、記者としてのキャリアが皆無に等しい20代半ばの光太郎が、取材対象の蒸留所社長の琉生に対し、歳が近いからか女性だからなのか、タメ口まじりで話すのには何度もいらいらさせられた。記者として社会人として未熟な面を強調することを意図した脚本だとは思うが、それ以前に人として他者との接し方に問題があるように感じられ、彼の成長にいまひとつ共感できないままだった。

観ながら気になっていたことがもう一つ。ウイスキー造りの話であるのに、肝心のウイスキーの魅力、琥珀色に透き通る見た目の美しさであるとか、うっとりするような芳醇な香り、味わった時の感覚的な喜びや高揚感のようなものが、ごくごく控えめにしか表現されていないことだ。味と体験が素晴らしいからこそファンが増えて経営が成り立ち、またそうした味と体験を提供することこそがウイスキー造りに携わる人々のやりがいや誇りであるはずなのだが。想像するに、観客の年齢を問わないG区分で劇場公開するため、酒の美味しさや飲酒の愉しさを描写するという部分で妥協せざるを得なかったのではないか。「酒そのものや飲酒する行為を魅力的に描いたせいで未成年の飲酒を誘発した」などと批判されるのを未然に防ぐため、描写を控える判断になったのでは。もしそうした自主規制がなかったなら、ウイスキーに興味がなかった光太郎が次第に味がわかるようになり、終盤で完成する銘柄を堪能して感動するという展開になったのでは、と酒好きの私は妄想してしまう。

高森 郁哉