「そりゃ精神崩壊しますわ…」アスファルト・シティ jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
そりゃ精神崩壊しますわ…
主人公は「人を助けたい」と志し救急隊員になってまだ数週間の、ナイーブな若者、クロス(タイ・シェリダン)君。中国人とルームシェアしながらの貧乏ぐらし。将来の夢は医師になること。医学部合格を目指し、働きながらコツコツと勉強を続ける真面目努力家。コロラド州出身。癒やしは若きシングルマザーとのセックス。クロスの精神が崩壊するとともに二人の関係も破綻します。
もうひとりのメインアクト、クロスとバディーを組むベテラン隊員・ラット(ショーン・ペン)。別れた妻との間にまだ幼い娘がおり、その子と会うことだけが唯一の癒やし。でも元妻に彼氏ができて遠くに引っ越されてしまう。9.11の生き残りでトラウマを負っている。ある事件をきっかけに彼の精神も崩壊します。
この二人の現場活動を密着取材風にカメラが追い続けます。なにしろ、ストレスフルな現場です。騒音まみれ、多言語が入り乱れ、現場活動は口出し手出しで邪魔され、ガンショットやドラッグのオーバードーズなど日本では珍しい現場が多く、過酷です。観ているだけでも気の休まる暇がありません。あんなところであんな仕事させられたら、とても正気を保てる気がしません。そりゃ精神崩壊します。救急隊員にとって世界一過酷な現場、それがニューヨーク・ハーレムです。
人の命を自分の力で左右できるという医療者特有の感覚が、彼らの倫理観をバグらせてしまいます。「生きる価値のないクズは助けない」という「不作為の殺人」を犯してしまう救急隊員たちの姿が描かれます。人命救助という崇高な使命と過酷な現実の間で、クロスの精神は蝕まれていきます。揺れ続ける映像、ノイズまみれの音響がクロスのストレスを観客に伝えてきます。危険を省みずに火災現場に突入し、子どもの命を救ったクロス。その子の笑顔と母親のハグだけが、彼へのご褒美です。背中に天使の羽根がプリントされたスカジャンが彼のユニフォームです。彼らに安らかな眠りがありますように。
安っぽいヒーローを量産する日本の医療ドラマ・映画がまるで子供だましに思えてしまいました。
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