「コミカルに描かれる歴史的敗戦から歴史的偉業に至る過程、その中に紛れる意外な毒が特徴的」ネクスト・ゴール・ウィンズ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
コミカルに描かれる歴史的敗戦から歴史的偉業に至る過程、その中に紛れる意外な毒が特徴的
2024.2.24 字幕 MOVIX京都
2023年のアメリカ&イギリス映画(104分、G)
原案は2014年のドキュメンタリー映画『ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦(マイク・ベレット&スティーヴ・ジャミソン)』
歴史的大敗を喫した代表チームを任された問題監督を描く実話ベースのスポーツコメディ映画
監督はタイカ・ワイティティ
脚本はタイカ・ワイティティ&イアン・モリス
原題は『Next Goal Wins』で、「次に勝ち取りたいのはゴール」という意味
物語は、2001年のW杯予選にて、オーストラリア相手に0対31という屈辱的な敗戦をするシーンが想起されて始まる
それから10年後の2011年、米領サモアのサッカー協会は、監督の交代を決め、全米サッカー協会にオファーをかけた
その頃、アメリカU-20の代表監督を務めていたトーマス・ロンゲン(マイケル・ファスベンダー)は、W杯出場を逃したために解雇されていて、次の仕事として米領サモアの監督を言い渡されていた
トーマスは行く宛がなく渋々オファーを受け、僻地の世界最弱チームの底上げを行うことになったのである
映画は、史実ベースのスポーツコメディになっていて、一部の選手だけが実名で登場している
全米協会の会長アレックス(ウィル・アーネット)、トーマスの別居中の妻ゲイル(エリザベス・モス)なども実名登場し、選手としてはジャイヤ・サルエラ(カイマナ)、ダルー・タウムア(ビューラ・コアレ)、ニッキー・サラプ(ウリ・ラトゥケフ)などの主要選手が当てはまる
後半に描かれるのはW杯の予選で、4チーム総当たり戦の第1戦目となっていて、米領サモアは初勝利を手にするものの、トーナメントを勝ち上がれずに予選で敗退をしている
今回は、弱小チームが1点を取ることを目標にしていく様子を描き、その延長線上で公式戦初勝利をする瞬間を描いていく
だが、物語のメインテーマはトーマスの再生であり、事故死した娘ニコール(ケイトリン・ディーヴァー)の心の傷であるとか、妻との別れがサラッと描かれていたりする
物語は、トーマスが米領サモアの雰囲気とかスピリットにふれていく中で理解し、勝つためのサッカーではなく、楽しむサッカーを選択する様子が描かれていく
彼らのサッカー観はトーマスと相容れないものだが、かと言って、精神的に前向きになれないとうまくはいかない
郷に入れば郷に従えというように、米領サモアでの生活が彼の価値観を変えていく様子が描かれているのが印象的だった
コミカルなシーンが多いのだが、事実ベースかどうか不明の「復帰オファーをかけた選手が事故に遭う」というシーンは悪趣味に思える
冒頭と締めで登場する司祭(タイカ・ワイティティ)がストーリーテラーを務めるのだが、明らかに滑っている感じになっているのも微妙だと感じた
いずれにせよ、ガチの経過を知りたい人はドキュメンタリーを観た方が良いし、タイカ節のコミカルな映画を観たいなら本作の方が良いと思う
フィジカルがあってもメンタルが育たないとダメだし、メンタルを支えるフィーリングも大事だと言える
あなたの心はいつもどこかにある、とタビタ(オスカー・ナイトリー)が言うように、トーマスの心はずっと「留守電に入っていた娘のメッセージ」に支配されていた
このメッセージがひとつずつ再生されていくごとに、トーマスとチームの心の距離が離れていくのが印象的で、彼自身が前に向くためにどうしたら良いかを描いていく
ラストはゲイルとの別れを決意し、サッカーから身を引くことになるのだが、心の区切りがつくまで離れるのも悪くないのではないか、と思った