「斜陽の百貨店、北極の温かい話」北極百貨店のコンシェルジュさん MP0さんの映画レビュー(感想・評価)
斜陽の百貨店、北極の温かい話
事前情報なくX(旧ツイッター)で公開されている事を偶然知り、観に行きました。
個人的には今年2023年の劇場アニメ作品でここまで一番の名作だと思いました。(70分ほどと近年の映画としてはやや短編ですが)
動物たちが買い物にやってくる「何でも揃う北極百貨店」に見習いコンシェルジュとして働き始めた新人の秋乃さん。
最初は「また新人がやらかした」という感じのお客様も先輩方も振り回す迷惑をかけ、謝ってばかり。
しかし彼女が憧れのコンシェルジュを目指して奮闘、レストラン、OB、上司、先輩そして様々なお客様との出逢いと接客を通してコンシェルジュとしても、人としても成長していく様に胸が熱くなりました。
現実では大手百貨店の売却や地方百貨店の閉店、老舗百貨店の経営不振の報道が続き寂しさを感じますが、作中の北極百貨店は百貨店が元気で輝いていた時代の雰囲気を感じる事ができ、今は亡くなった祖母に連れられて地元の百貨店に買い物に出かけた事を思い出しました。
ここからはネタバレを含みますが、お客様や支配人などの動物たちは絶滅危惧種または既に絶滅してしまったれ動物たちである事が終盤に語られます。
毛皮や食用または脂などのため、人の欲のために狩られ絶滅したり、絶滅しかけている動物たちが、人の欲の集約した百貨店で着飾ったり、恋人や大切な家族への贈り物、または記念日を過ごすためにやって来て、まるで人間のように愛を語り、想いを紡ぐ皮肉であり、風刺でもあるこの作品はあまり宣伝を見かける事が少ないかもしれませんがもっと沢山の人に見て欲しいなと思いました。
最後にエンドロールに撮影協力として日本からは伊勢丹高島屋、そして北極百貨店ののモデルになったのは世界で最初の百貨店パリのル・ボン・マルシェ(1852)でしょうか。
英米への亡命の経験もある遅咲きだったナポレオン3世の治世、イギリスに遅れてフランスに産業革命が押し寄せ、大量消費時代に突入した時代は動物たちの絶滅が本格化した時代でもあり、掛け値(値引き)なしのショーウィンドウ販売でお金がない人も見て歩くだけで楽しい場所。
品物を手に入れるだけならネットで簡単に安く探して買える現代とは対照的な、人を介する事で手間もコストもかかるから価格で到底競うのではなく、温もりと悦びを分かち合うコンシェルジュという仕事と新人(見習い)の視点を通して見る古き良き時代の百貨店、現代の百貨店の歯痒さと目指す一つの在り方をこの作品の中に観た気がします。