愛にイナズマのレビュー・感想・評価
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アフターコロナの家族と愛の映画が令和5年の秋に出る奇跡
2021年5月公開の「茜色に焼かれる」のレビューで、「コロナ禍が日本で本格化してから1年半、しかもいまだその渦中。石井裕也監督がこの間にオリジナル脚本で今を生きる人々の物語を撮影して完成させ、公開までこぎつけるこのスピード感たるや」と書いた。そして今作「愛にイナズマ」でも、石井監督の時代感覚と機動力に畏敬の念すら覚えてしまう。今年5月に新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類感染症に変更され、日本が“コロナ後の時代”に入ってからまだ半年ほど。だが石井監督はこの変化を予見し、2021年末には脚本第1稿をプロデューサー陣に送っていたという。
たとえばアベノマスクにしても、不織布マスクに比べて感染予防効果の低い布マスクを全国民に配布するという愚策を得意げにアピールする当時の安倍首相への脱力感や、不良品の回収と作り直し、余剰在庫の保管にまで途方もない税金が投じられたことへの憤りも、すでに遠い昔のことのように感じてしまいそうだが、本作ではギャグのアイテムとしてしっかり機能している。窪田正孝が演じる正夫が殴られて布マスクに血がにじんで日の丸みたいになったり、後半のある場面で襲撃に備えて顔を隠そうと着用した布マスクが微妙に小さかったりと、アベノマスクでなければ生まれないおかしさ、滑稽さに笑いながら、世紀の愚策を優れた風刺で人々の記憶にとどめておくという戦い方もあるのだなあと感心。
コロナ関連だけでなく、映画業界のパワハラ・セクハラを序盤で描いている点も、実際に邦画界で著名監督や俳優が相次いで告発されたのが2022年春だったから、時事問題をタイムリーに脚本へ組み込む機敏さに感服するしかない。業界や会社の伝統や慣習を盾にする年長者が、若手の独創性や改革をつぶして心を折る傾向と、そうした連中のほうが出世しがちという理不尽は、映画界に限らずどの業界でもよくある現実だし、共感する人も多そうだ。
松岡茉優が演じる監督志望の折村花子のカメラで撮影される映像が、シネマスコープサイズの本編部分と区別するため、スタンダードサイズで挿入されている。このやや窮屈な画角の中に、父役の佐藤浩市、長兄役の池松壮亮、次兄役の若葉竜也が揃って赤い服を着て座り、困惑気味の表情でカメラをのぞき込むショットに爆笑してしまった。この画を撮りたいがために劇中の映像素材に4対3の画角を選択したのではと邪推したくなるほど、あの家族のショットは最高だった。
みんなでハグどうですか?
採点3.8
コロナ禍に、バラバラになった家族の再生を描いたヒューマンドラマ。
兎に角、段々と増えてるキャストがすっごい豪華です。
松岡茉優・窪田正孝・池松壮亮・若葉竜也・仲野太賀
佐藤浩一・竜也など、中でも佐藤浩一の親父像が味わい深い。
主演の松岡茉優はその独特な痛いキャラを見事に演じており、前半の鬱屈とした感じから転じて感情を剥き出したような芝居の変化は見事だった。
そしてバラバラだった家族が段々とまとまってくのがすごい面白かったです。
「みんなでハグどうですか?」なんて泣いちゃいましたよ。
脚本というよりも、それを上回る役者陣の芝居に魅せられた作品でした。
自分には難しかった。
自分は映画素人というか、ただ映画観て楽しんでるだけで批評も評論もできない凡人なので、
正直「この映画、結局なにがしたかったん?」という感想になってしまいました。
前半の、何もかも上手くいかない駆け出しの映画監督のターンはとても共感できたり映画業界の裏を知れたり面白かったのですが、バーでの出会いのシーン(なんかだいぶネジが飛んでる人たちのやりとりを延々見させられてる感…そういう共感の難しいシーンは短いならスパイス的にいいんですが長くなると濃すぎて飽きが来る)がちょっと冗長すぎて眠くなった…
その後すこしストーリーが動き盛り返したけど、後半いきなりダメダメ家族のハートフルストーリーみたいになってきて、それ単体なら(そういうモードで観るなら)全然好きなんだけど、前半の拗らせ女子のアレコレに感情移入していただけに「今求めてるのはそういうんじゃない…」という気分にどうしてもなってしまった。
まとめると、テーマが散漫に感じて、どういう気持ちで観ればいいのか終始わからなかった。
なんかいい感じの気分で終わるんですけどね。それなら前半の味が濃すぎたな〜みたいな。
豪華な役者陣は本当に本当にすばらしく、MEGUMIさんと荒川助監督は笑えるくらい憎たらしいし、池松さん若葉さんは癖ありすぎなのになんか憎めないし、窪田さんのちょっと境界知能っぽいキャラ造形は見事だし、佐藤浩市パパは泣かせるし、松岡茉優さんは毎度ながらほんと見事に「本人的には必死なんだけどいつも周りをちょっとイラッとさせちゃう人間」を演じきっていて流石だし(今回もなんかムカついた(褒め言葉)笑)、そんな熱演のおかげで問題なく最後まで観れました。
でも内容的には、もう観なくていいかな…ハートフルな家族ドラマも、必死に夢追うけどままならないストーリーも、こじらせまくりな痛い人たちの物語も、それぞれ他に名作がたくさんあるので、別にこの作品じゃなくていいな…と思ってしまいました。
失礼なことばかり申し上げてすみません。
結論、素人で凡人の自分には難しい映画でした。
誰かの参考になれば幸いです。
もっとぶちのめして欲しかったけど
芽が出そうで出ない若手女性監督が業界の重圧に抗して家族の映画を撮ろうとジタバタするお話です。着実に作品を撮り続ける石井裕也監督の作品。
大好きな『勝手にふるえてろ』から続いている様な松岡茉優さんのこじらせぶっ放し振りがとても気持ちいいです。ただ、訳あり家族のお話が交わる事で暖かさは大きく膨らんだ一方で、痛快さは少し丸められたかな。最後にあいつらに目に物を見せてやって欲しかった。 (2023/12月 鑑賞)
火薬庫のようによく爆発するキレキレの会話が気持ち良い
窪田さんの陰キャキャラ造形がすごく良かったけど、松岡さんとの唐突に入る恋情描写に少しおいて行かれた。が微妙で火薬庫のような家族仲の描写と転がる会話、言い過ぎなくらい言いたいことを言う登場人物たちにスカッとして、とがったナイフのような素敵な映画でした。
長すぎ
なプロローグ。
退屈で何度も観るのをやめようかと思った。
実家に帰ってからもグダグダで眠気がさした。
それが一変したのは父の友人のレストランのシーンから。
甲斐性なしの父親像が180度変わった。
その後の展開には心が温かくなった。
最近映画を観て心がポジティブに動くことが少ないので、
ことさら印象的だった。
前半のもたつきが惜しまれる。
映像作品の重層構造解体。そして三浦貴大好演。
本篇と劇中映画の往還による映像作品の重層構造解体は愉しい。
素の役者が他作より一枚前に出て来る。
数多凡百の機能不全の家族は構成員の誰かの死でもないと再生し得ない、
即ち殆どの家族が機能不全だが、どの家族にも構成員の死が訪れ、再生の契機も訪れる、か。
三浦貴大好演。
アベノマスク
めちゃくちゃ純粋な折村一家&舘正夫VS極悪業界人や半グレ達。そうなんですよ。純粋な人は利用され搾取され最悪自死する社会です。
テメェら、アベノマスクや宗教や金をありがたがってんじゃねえ。こっちは魂入ってんだ。まるで、石井裕也の魂の叫びを聞いているみたいでした。ちょっとエログロ入っていない園子温テイストな作品です。
松岡茉優なんか顔違う??
いまいちどーゆーキャラなのか、自分は相当おかしいみたいなこと言ってたけど、どんなところがおかしいのか?いまいちよく伝わらなかった。窪田正孝の方は分かりやすく発達障害っぽかったけれども。小さい頃からバラバラだった家族が、急にあんな仲良くなる??所詮家族ごっこ、家族の演技をしてるということかな。みんなどこか変態で、足らなくて、そこを埋めようと生きてる。埋まったふりして生きてるあの上司たちを、路上で会ったあの人たちを、レストランで会ったあの人たちを、いつかギャフンと言わせてくれ。
松岡茉優だけでなく、佐藤浩市の親子が素敵な一本
<映画のことば>
「負けませんよ、あたしは。」
花子監督は、念願の監督デビューを飾るべく、映像作品を通じて実母の出奔の秘密を探ろうと試みるのですけれども。
しかし、製作に大きな発言力を持つプロデューサーの意向(横暴?)で作品を取り上られてしまうー。
それでもめげない花子監督は、偶然に知り合った(頼りなげな?)彼氏・正夫に触発されて、十数年来も行き来のなかった家族に突撃取材を敢行することで、自分なりの映像製作を続けようとは試みるのですけれども。
結局は、花子監督の剣幕に、ついに押し切られた父・治がしぶしぶかけた一本の電話で、その真相は明らかになるー。
いずれにしても、花子監督のこの「突撃体勢」は、正しく「イナズマ」そのものであり、そのエネルギーが、バラバラだった治、誠一、雄二を、家族の絆で(再び)まとめ上げたのではないかと思います。
そして、「猪突猛進」の言葉のとおり、イノシシの如く真正面から突進してくる娘を受け止めかねて、たじろぐ父親役の佐藤浩市の好演ぶりも見逃せなかったと、評論子は思います。
彼の演技は、まさにそんなイノシシ娘をどう受け止めるのか、扱いに困る父親の姿そのもの。
実際、爆弾のような娘と対峙していた心当たりの評論子には、百も二百も合点できる名演技でもあったとも思います。
そして、その娘=花子監督を演じた松岡茉優の演技が秀逸だった一本としても、充分に佳作としての評価に値する一本だったと思います。
(追記)
血を分けた実の家族ではあっても、携帯電話の解約など、公的(?)な手続きでは「紙」で、その家族関係を証明しなければならなかったことが、治・誠一には、もどかしかったように見受けられました。
個々の家族の関係など知る由もない携帯電話会社としては、無理からぬ対応でしょうし、ほんの「はじっこ」とはいえ行政機関に職を得ている評論子としては、日々、同じようなことをしているとも言えそうです。
反面、そのことは、書類面(づら)さえ整えば「家族」として通用してしまう「危うさ」も含まれていることを忘れてはならないとも思います。
(追記)
プロローグのタイトルが「あり得ないこと」になっていましたけれども。
上記のとおり、製作側の判断で、花子監督は、その監督としての立場を勝手にすげ替えられただけでなく、タイトルはそのままに、自分の構想(理由もわからずに出奔してしまった自分の母の物語)を勝手に取り上げられてしまったわけですけれども。
そんな「ありえへん」ようなことは、映画の世界では決して「ありえへん」ことではないのでしょうか。
本作が時代背景としていたのは、ひと頃の「コロナ禍」。
中世ヨーロッパの黒死病(ペスト)じゃああるまいし、もともと保健衛生には「これでもか、これでもか」と言わんばかりにうるさかった令和のこの日本で、大規模な感染症(COVIT-19)が流行することだって、本当は「ありえへんこと」だったのかも知れません。
その一方で、食品衛生一つとっても、やれ賞味期限だといい、消費期限だという。しかし、どっちにしても細菌の繁殖具合とかいった客観的な指標で常に常に判定されているわけでもなく、官能試験といえば聞こえはいいのですが、要するに人=判定員が、言ってしまえば、その主観で判断している。
一皮剥いてみれば、そんな不安定さ。
往時は、何でもかんでも二言目には「コロナ禍だから」という修飾語句で一括りに括られていましたけれども。
しかし、そんなこんなに対する痛烈な皮肉が本作には込められていると言ったら、それは穿ちすぎというものでしょうか。
(追記)
もう一つ、コロナ禍の特徴は、マスク姿ということでしょう。
顔の半分が隠れることで、そのぶん素性も隠れる(隠しやすい?)ということで、本音が前に出やすかったということもあったのでしょうか。
本作でも、正夫が、飲食店での詐欺グループに堂々とケンカを売ることができたのも、素性が(半分)隠れていたことと、無縁でなかったと、評論子は思いました。
(洗濯後の彼のアベノマスクに、洗っても落ちないほどの血痕が、しっかりと付いていましたから、相当の「返り討ち」に遭ってしまったことは、想像に難くありませんけれども)
(追記)
お話が戻りますが、「ありえへん」といえば…。
評論子が住む北海道では、大地震の影響で全道的な停電(ブラックアウト)があり、三日三晩、電気のない生活を強いられてしまいました。
「ほんま、ありえへんわ。」
映画フアン殺すにゃ刃物はいらぬ。
電気の三日も来なきゃいい。
(追記)
更につまらないことなのですけれども。評論子が気になったのは、フェリーから亡母の遺骨を撒くシーン。
実際の海洋散骨では、遺骨を薬剤でジェル状に固めてから、それを海中にポトンポトンと落とすやり方だそうです。
本作のような方法では、風向きによっては、撒いている人の目に入ったりもするそうですし、第一、他のお客さんも乗っているフェリーでというのは、論外でしょう。
基本的には撒くだけなので、節度をもってやる限りはOKというのが厚労省筋の見解ではありますけれども。
一方では、その地その地によってローカルルールもあるようですから、地元の葬儀屋さんをかませることは、実際問題としては、必須のようです。
前半は不快、後半は演劇、ストーリーはありきたり
不快な登場人物が多くてイヤになる。
それをがまんすると後半は俳優陣の演技バトルのよう。映画というより演劇を観ているよう。
ただストーリーは浅い。予想できる展開ばかりで、かつ大げさなので余計に演劇感がある。
伏線と思わせたものも回収せず、すっきりしない。投げっぱなしのロードムービーを観ているよう。豪華俳優陣に助けられた感じ。
助監督の過去に興味あり
個人評価:3.8
色んな人物が出てくるが、一番興味を魅かれたのは三浦貴大演じる助監督だった。
なぜその価値観・生き方に至ったのか。そこには理由や経験則があり、助監督の過去の出来事の方が見たかった。
あの意見は石井裕也の経験を代弁しているかのように、リアリティがあった。
最終的には何が言いたいのか分からなかったが、とにかく役者の演技は見応えがあった。
思いの外、いい映画だった…。
レビュー書くのも久し振り。
呑みながらエピローグを聞き流し、大筋の内容だけは把握しつつ…。
家族全員揃ってからの展開は腐り切った社会を風刺しつつ淡々と描き続ける。
それがこの映画の本題なのだろうな。
人知れず人を想い行動してゆくことの大切さみたいなものが人の人生なのかなと…。
解らない人には解らない映画かもね。
自分は心に残ったね。
いい邦画みた感
映画でギョーカイジンにケンカ売ってくスタイル、いいと思います。
ぜんぜん自分とは違う家族像なのに、なんか共感しちゃうバランスとか
良い感じにストーリーを前進させる正夫の存在とか
佐藤浩市ってこんな役もできるんだ、とか
たぶん外国の作品だったらこんな感動することもなかったと思うので
いい邦画みた感がすごくあった。
観たい俳優さん勢揃い
よく頭をぶつけてボーとすることの多い正夫くん、あべのマスクを愛用して70万円貯めた正夫くん。子供達に冷たくされて悲しげな父親を優しく抱きしめる優しい正夫くん。ギスギスした折村家の4人のいい潤滑油となって、とてもいいキャラ。窪田正孝がとてもピッタリで、好演。
結局お父さんの病気はなんだったのかなあ?お母さんは本当に死んでいたのか生きていたのかどっちだったのかなあ?と気になるところはあるが、さほど重要でもない。
クスッと笑える面白いところもあり、家族愛にほっこりしたり、とてもいい映画でした。
観る順番が悪かったかも
石井監督作品で大好きなのは「夜空はいつでも」で、実は「河の底から」とか余リ好きではなくて、要はともかく、演出力というか、力量が半端ないなとはこの監督のことだと思います。細部までしっかり作り込まれていて、特にカットの繋げ方が最高に上手いなといつも思います(牛肉と太賀さんのオーバーラップとか)。ただ好き嫌いは出ます。
で、今作「愛にイナズマ」は余り面白くなかったです。こんなオリジナルを、監督好みの俳優を細部にまで集めて(思い出してみれば過去作に出ている方々ばかり)、しかも上映時間140分、そこはやはり石井監督の今の地位なんだと思いました。
前半後半2本立て観てるみたいでした。どっちを作りたかったのかとずっと考えてました。前半は監督自身のこれまでの苦労でしょうか。
今回は、この作品の直前に「ほかげ」を観てしまっていて、その衝撃から抜けきれていません。前半の業界人の場面、コントレックスなんか飲んでるMEGUMIさんの役とか、これもあれも戦争の犠牲者の方々がいてこそだぞ! とか考えたら何か没入できませんでした。順番が悪かったんだと思ってます。
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