「けっこう複雑で難解だが真実を描いている」愛にイナズマ R41さんの映画レビュー(感想・評価)
けっこう複雑で難解だが真実を描いている
オリジナル脚本と知ってなるほどと思った。
この作品を小説にするのは難しいだろう。
この作品もまた難しい。
1500万
作品に必要な最低資金
コロナによるバーへの都からの援助金
見栄のために社長に借りたセイイチのBMW
父のした暴力の代償
詐欺を計画する男たちの皮算用
「意味」があるようなないような数字は、文字通り「意味があるのかないのか」ということへの問いかけだろうか。
さて、
すべてにおいて「理由がない」映画監督オリハラハナコ 決して理由がない訳ではないがその不明確さにいら立つ助監督
オリハラにとって心の中心にある「母の失踪」は、すべて謎のまま
だから「わからない」ことに焦点を当てているのだろう。
理由がないのではなく、なぜそこにこだわるのか「わからない」母の心境に焦点を当て続けている。
当然オリハラがわからないことを助監督には理解できない。
幼少時代に負った心の傷の正体を、映画というコンテンツを使って探そうとしている。
母の失踪理由をドキュメンタリータッチで作ろうとした。
タイトルは「消えた女」
ハナコ以外の家族は概ねその理由を知っていた。
それを「外国へ行った」ことにしていた。
当時はぼんやり受け入れていたハナコだったが、到底受け入れられない嘘に「なぜ?」が大きくなっていく。
兄と連絡しないのも、父からの電話を無視するのも、それが原因だろう。
人の心
「ありえない」ことが「あり得る」のが世の中。
助監督は作品という中で、「そんな人いない」ことが常識だと考えるが、ハナコは実体験から「それが人だ」と考える。
「突発的なあり得ないことは、ある」
「あり得ないことは起こる」
コロナ以降の世界
そして誰もが「体裁よく自分を演じている」世界
中学生の言う「マスク」「酒」 ルールと常識 それに従わないのは悪
中学生は変わってしまった世間の代表だろう。
かつてあった自粛警察と同様
従来の手法でなければならないという助監督
立場を理由に下心丸見え
結局それがきっかけでハナコは降ろされてしまう。
食べていけなくなった俳優オチアイソウタの自殺
その死を食肉と同様に描いているのは、助監督の言葉とは真逆の「死というものの軽さ」
コロナ関連自殺の数 食肉と同じ扱いにされている事実。
作品の中の「生と死」は軽くできないが、世間の「生と死」の扱いに対する驚愕の軽さ。
さて、
ハナコにとって赤は家族の絆の色だったのかもしれない。
それはおそらく母が好きだった色
母が好きだった赤いバラの色
誰もそんなことを覚えてはいないが、自然と赤を身に着けている。
使われることのないケータイの基本料金
思い切ってかけてみると、3年前に亡くなっていた。
父のDV 母の嫌気 不倫 失踪
「本当はまだ生きているかもしれない」という父の言葉の本心がわからなかった。
もしかしたら赤と同じで、いつか戻ってくると信じていたのかもしれない。
ハナコのすべての動機である母の失踪
ハナコの本心は「母の帰還」だったのだろう。
やがて知る父のDVの理由
詐欺計画を練る連中と喧嘩した後、自宅で乾杯 大きな雷鳴と停電
父がろうそくを灯し、ブレーカーを上げる直前火を消したのはなぜだろう?
ずっと一人暮らしだった父
胃がんと余命宣告
その報告で子供たちを集めたつもりだったが、彼らの中にあったモヤモヤの正体こそ母の失踪の真実。
胃がんの報告よりもっと過去のことについて説明しなければならなくなる。
そうして全てのことがわかってしまう。
「何が正しいのかわからない」
父の同級生の言葉
ブレーカーを上げる前の父の言葉「お前ら本当にそこにいるのか?」
実在に対する確認 実在の証明をしたかった。
真っ暗で何も見えないときに、声だけが頼り。
家族の実在を確認したかった父
家族の記憶のないマサオにとって、折原家での出来事は家族がどういうものなのか知る機会となった。
ハグ 存在の確認
ハナコの作品のタイトル 「消えない男」
家族の絆を取り戻した折原家
ハナコの心のもやもやがなくなったとき、もはや母のことよりも父のことの方に焦点が集まっていた。
いなくなった母を探していたら、知らないことだらけの父を、家族を見つけてしまった。
ハナコはこの事実を作品として世に出すことはできるのだろうか?
本当のこと
本心を言え
しかしそれを描くことはイナズマに打たれるようなことなのだろう。
心のもやもやが吹っ切れたハナコだが、自分の作品というものがまったく別物にならざるを得ないように思えてならない。
フィクションの中に垣間見える真実こそ、作品になり得るのかもしれない。
今後彼女はそれをどのように表現していくのだろうか。
これが余韻となって残る。
とても面白くいい作品だった。