「夫婦愛+家族愛」青いカフタンの仕立て屋 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
夫婦愛+家族愛
マリヤム・トゥザニ監督によれば、前作のロケ中にサレのメディナで美容室を営む同性愛者の男性と知り合ったことがこの映画を制作するきっかけになったという。その後、大人の女性の象徴で、少女時代からの憧れであったカフタンというものについて考えていた時、伝統の手仕事を守る人々を見つめ、尊敬の念を作品で表現したいという思いが湧き上がり、カフタンの仕立屋を舞台にした内容に変わったそうだ。
この映画では同性愛というのが主要なテーマとなっているが、それよりも、ハリムとミナの夫婦愛やユーセフを含めた家族愛の方に好感を持てるというのが大方の感想であり、私も同感である。母親は自分を生んで命を落とし、父から愛されていると思ったことがないハリム。縫製の技術は父が教えてくれたが、父が亡くなってから身内がいなくなり、孤独感に苛まれている中、母性的で愛情深いミナに誘われて結婚した。ハリムは同性愛者であり、それを隠して生きているが、ミナはそれに気付いている。ミナは乳がんを患っていて余命が短いが、「愛することを恐れないで」とハリムに問いかける。そんな2人の元に、ハリムの見習い職人として現れたのが、8歳から自分の力だけで生きてきたというユーセフ。ミナに布を盗んだ疑いがかけられ、「盗んでいません」、布代を給料から引くといわれても「構いません」と答える。独りで生きてきたのだから、給料を減らされてもなんとかなる、そう気持ちを強く持って生きてきたユーセフに自分と似た匂いを感じ、親身になって縫製技術を教えるハリム、次第にミナとの間の誤解も解け、3人は疑似家族となっていく。
モロッコに加えて、同性愛ときたので、カルーセル麻紀という人の存在を思い出した。彼女は「戸籍を男性から女性にしたパイオニア」といわれ、1973年モロッコで性別適合手術を受けた。モロッコというのは同性愛と関係が深い国なのだろうか、疑問がわいた。