「モロッコ海沿いの街サレ。 路地が入り組んだ街中で父親からカフタンド...」青いカフタンの仕立て屋 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
モロッコ海沿いの街サレ。 路地が入り組んだ街中で父親からカフタンド...
モロッコ海沿いの街サレ。
路地が入り組んだ街中で父親からカフタンドレスの仕立て屋を継いだハリム(サーレフ・バクリ )とその妻ミナ(ルブナ・アザバル)。
伝統的な手仕事による仕立てのため数はこなせない。
また、そんな伝統的な手仕事職人のゆえか、見習い職人はいつかない。
その上、ミナは気丈夫だが病弱であり、人当たりはいたって厳しい。
折しも高級なブルーカフタンドレスを仕立てているさ中、ユーセフ(アイユーブ・ミシウィ )という若い職人が現れ、筋が良いことから彼を雇うことにするのだが・・・
といったところからはじまる内容で、まぁ、こういうように書くと、伝統的な師弟愛、夫婦愛の映画に見えるのだけれど、その実、伝統的に反旗を翻すような類の映画。
ユーセフを雇って指導するハリムの妖しい眼差しから、「ははぁん、ハリムは同性愛者なのね」と気づく。
ハリムは、しばしば街中の公衆浴場を利用し、その個室において、見知らぬ相手と性的関係を結んでいることが描かれます。
そして、当初、よくわからなかったのだけれど、妻ミナはイスラム社会にもかかわらず女性が着けるべきとされているヒジャブを被っていない。
また、夫のエスコートがあるにしても、男性しか集まらない喫茶店(イスラムの戒律によるのだろう)に連れていって頼み、夫はその願いを叶える。
周囲の眼は冷ややか。
帰宅途中、警察官に尋問されたりもする。
つまり、ハリムとミナの夫婦は、イスラムの常識的な夫婦からは逸脱しているのだ。
それが、彼女の病気、夫の性癖のどちらが先だったはわからないが。
ということで、いくつかのエピソードが積み重ねられるが、最終的にはハリムとミナとユーセフの奇妙な三角関係に帰結し、ミナの死によって、三角ではない形となる。
イスラム社会のモロッコを舞台に描くことで、その三角関係の何とも言えない先鋭性が突出するが、伝統からの逸脱はミナの死装束代わりのブルーカフタンに集約されます。
伝統への対抗意識やバイアスに対する疑問の投げかけなど主題的には評価できるのだけれど、いかんせん前半がまだるっこしく、後半から終盤になって立ち上がって来た主題のわかりやすさは逆に高評価するのが難しく、なんとも微妙な一編だったぁ、というのが正直なところ。