「まだまだ世界は広い」青いカフタンの仕立て屋 シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
まだまだ世界は広い
自分では幅広く様々な作品に触れたいという気持ちはあるのだが、この歳になると見る映画がやはり偏る。
プロじゃないので見る本数は上映本数に比べ圧倒的に少ないし、その中で厳選していくと自分の好きなジャンルや監督などにどうしても偏っていく。これはまあ、誰しも仕方ない事ですよね。
でもたまには気分を変えて、一端の映画ファンを自称しているのだからと、ミニシアターで全く知らない監督の今まで見たこともない国の作品でも見てみようと本作を選びましたが、それでも事前にネットで予告編は見たし、2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞という情報だけは入れて臨みました。
で見た感想ですが、タイトル通りまだまだ世界は広く知らない才能に溢れているという事の確認だったように感じました。
予告編での映像タッチである程度の作風のトーンは予想できましたが、初めての監督作品に接する時の独特の緊張感が観終わるまで続き、それが映画好きにはタマラナイ感覚でもあるのですよね。
内容的には冒頭で私の苦手な恋愛映画であったり、今流行りのLGBT作品かなと思ってしまいましたが、そういう側面も含みつつ所謂そうした単純な恋愛映画やLGBT作品とは一線を画す作品に仕上げられていたので驚かされました。さすが「ある視点」部門に出品されるに値する、既存概念を越えた作品だったと思います。
冒頭にモロッコという国は、戒律でも法律でも異性愛は禁じられているというテロップが入っていて、その国での生活状況が想像でき、それが主人公の生き方を縛り付け、ラストに喪服に対する戒律を破る行為そのものが、本作の核となるテーマになっていて、恋愛やLGBTを超えた“純愛”(人間愛)を描いた作品に昇華されていました。
本作は全編美しいのだが、特に(だからこそ)本作の主人公三人が窓辺で外から流れる音楽に合わせ踊るシーンは至福の美しさでした。