「モロッコを舞台に、民族衣装の仕立て屋夫婦と見習い職人の人生のひとコマが描かれます。思っていたよりもモロッコという国を深く紡ぎ出したお話のような気がします。」青いカフタンの仕立て屋 もりのいぶきさんの映画レビュー(感想・評価)
モロッコを舞台に、民族衣装の仕立て屋夫婦と見習い職人の人生のひとコマが描かれます。思っていたよりもモロッコという国を深く紡ぎ出したお話のような気がします。
舞台はモロッコ。伝統衣装のカフタン。
伝統を伝える者。受け継ぐ者。
惹かれる要素が一杯詰まってそう。
そんな予感に引かれて鑑賞しました。
…のですが。
色々な要素は詰まっていました。
はい、それは間違い無いです。なのですが、
「これはこういう作品」と一言で括るのがとても難しい
そんな作品だった気がします。
登場する主な人物は、およそ3人。
民俗の伝統衣装の職人。 ハリム。 口髭のおじさん。
店を切り盛りする奥さん。ミナ。 さっぱりした性格。
若手の職人見習い青年。 ユーセフ。顎のヒゲが素敵。
見習い青年君は、雇われて間が無いらしく
夫婦二人は、青年の縫製技術を確かめながら
やっていけそうかを判断しようとしている。
そんな場面から始まります。
そして次第に分かってくるのですが
#ミナは少数民俗出身。病気で余命が短いらしい。
#ユーセフ青年は、ハリムに想いを寄せているようだ。
#ハリムは時折、公衆浴場で男と体の関係を持っている。
…うん。そうか。
どうやら、作品のテーマに「LGBTQ」があるらしい。
(…と悟るのは、帰宅した後のお話)
8才から自分の力だけで生きてきた。
そう語るユーセフ。
ミナに布を盗んだ疑いを懸けられ 「盗んでいません」
布代を給料から引くと言われても 「構いません」
独りで生きてきたのだから。
給料が減らされたって何とかなる。
そう気持ちを強く持って生きてきた。
そんなユーセフに、親身になって縫製技術を教えるハリム。
もしかしたらユーセフにとって人生で初めて「頼れる」と
いう感情を持った相手だったのかも。
◇
ハリムもまた、自分の生い立ちをこう語ります。
母親は、自分を生んて命を落とした。と。
父から愛されていると思った事が無い。とも。
縫製の技術は、父が教えてくれた。
父が亡くなり、身内がいなくなった。
漂う孤独感の中、自分を支えてくれたのが、ミナだった と。
ああ、そうか。
ハリムとユーセフは似ているのだ。
ハリムと二人だけになったとき、ユーセフが
「愛しています」と
思わず口をついてしまう。
ハリムは何も応えず、ユーセフは「他の職人を探して」
と告げ、工房を去っていく。(※)
この場面での「愛している」は、単なる「G」の心情から
出ているだけではなく
自分を押し殺してきた者同士の「同志愛」のようなモノが
そこにあるようにも思えました。
(※)1週間後、店が開いていない事を心配して夫婦の家を
訪ねてくる、とても良い奴です ⇒ユーセフ。
◇
この作品、考えれば考えるほど
登場人物の内面の揺れ動きが複雑に感じられます。
ここまで色々と、登場人物の心情について
考察することになる作品とは思ってませんでした。はい。
モロッコという国が「多様性」の国だと
帰宅後に調べてみて知りました。
民俗・文化・宗教
色々な面で「多様性」の国なのだと知れただけでも
観て良かった。 …です。(たぶん…・_・;; )
◇あれこれ
■モロッコ
小学生の頃に読んだ「アルセーヌ・ルパン」のお話。
その中でルパンは、
第一次大戦時フランスの義勇兵としてモロッコに参戦する。
そんな話もあったように記憶しています。
また作中に「モロッコ革の財布」等の記述が出てきたり と
「モロッコ」は冒険心をくすぐられるワードでした。
「カサブランカ」の舞台もモロッコですね。
「マラケシュ」は岩合さんのネコ歩きで知りました。
現実の世界はともかく(…いいのか?)
どことなく惹かれるものを感じられる国です。
■カフタン
主に女性が結婚式で着る衣装。 だそうです。
花嫁も参列者も、カフタンを着るのだとか。
元々はトルコの民族衣装、との記事も見ました。
(ミナはトルコ系なのかな?)
地中海を挟んでヨーロッパと向かいあっていて
アフリカ大陸の一部で(北西に位置しています)
アラブ系の国との交流もあって…。
となると、多様性の国になるのも必然
そんな気がしてきました。
◇最後に
ラストシーンへとつながる場面。
ハリムは、葬儀のために白い布で全身を覆われたミナに
自分たちの仕立てた青いカフタンを着せようとします。
” 白い布で覆った遺体に触れてはいけない ”
” 戒律を破るのか ”
警告を無視し、世話係の女性たちを追い出して
白い布を取り除き始めハリム。
粛々とミナの姿を青いカフタンで覆っていく。
” 私もこんなのを着てみたかった ”
かつてミナが口にしたことを覚えていたハリム。
ミナが言う着てみたかった場面は「結婚式」。
二人の結婚は、式を挙げていない事実婚なのかもしれない。
青いカフタンはハリムからミナへの、最後の贈り物。
そう思ったら、二人がとても愛おしくなりました。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
今晩は。
今作、本日私の勤務先の近くのミニシアターで漸く鑑賞出来ました。
モロッコ映画って今作の監督の前作が多分初鑑賞だったかと思いますが、仰るようにモロッコって(行った事はありませんが)多文化融合国家であり、歴史的には虐げられていた時代が長かったのですよね。
今作はそういった中、自国の固有文化の継承をする職人たちの姿を(多分)ギリギリの線で描いた素敵な作品でした。では。
あと、”女性は強し”とも改めて思った映画でもありました。
返信は不要ですよ。