PERFECT DAYSのレビュー・感想・評価
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極上の音楽と映像でトイレ清掃業者をカッコよく描くという前代未聞の試み
ヴィム・ヴェンダースとジム・ジャームッシュが時々ゴッチャになるなどと言ったら両方のファンから袋叩きにされるだろうと思う。
そのくらいカンヌ映画祭的な映画には疎い。
カンヌ映画祭というと「観た人それぞれに解釈が委ねられる映画」が多い(気がする)。
こちらとしては自分なりに解釈しろと言われると不安になる。
意地悪しないでちゃんと答えを言ってよ、という気になる。
アメコミ映画ばっかり観ててすみません、という気持ちにもなる(笑)。
この映画も「観た人それぞれに解釈が委ねられる映画」だった。
特に何か大きな事件が起こるわけでもなく、孤独な中年のトイレ清掃業者の日常が淡々と描かれている。
何の解答も解決も提示されず、観客は放ったらかし状態である。
ただし、極上の音楽と映像でトイレ清掃業者が描かれるのである。しかもトイレ清掃業者を演じるのは役所広司である。
かつて、これほどまでにトイレ清掃業者をカッコよく描く映画があっただろうか(いや、ない)。
あまりにもカッコよすぎて何だかCMみたいだと思ってしまうくらいなのだが、Wikipediaによれば、渋谷区内17か所の公共トイレを刷新する日本財団のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のPR活動として短編映画を作る、というのが製作の発端だったようで、営利目的ではないにしてもそもそもCMに近い構想が根っこにある映画なのだ。
そしてこの、「あまりにもカッコよすぎる」ということで映画の評価が分かれている気がする。
日本のワーキングプアの過酷な現実を知っている人ほど否定的な意見になるようだが、それも無理からぬことだと思う。
自分も単純肉体労働の経験が10年以上あり、四畳半一間で風呂無しトイレ共同という激安アパートで暮らした経験もある。
そういう人間の目から見ると、この映画の主人公平山の清掃業者としての業務形態も生活レベルもあまりにも現実とかけ離れていて、こんな清掃業者は日本中どこを探してもいないよ、と思ってしまうのは事実である。
だが、それが何だというのか。
アメコミヒーローだって世界中どこを探したっていはしないのである。
いないとわかってても人はヒーローに会いたくて映画館に足を運ぶのである。
日本中どこを探してもいないようなカッコいいトイレ清掃業者に会いたくて映画館に足を運んで何が悪いというのか。
自分も、もし佐藤二朗あたりの性格俳優を使って、本当にうす汚い公衆便所を掃除する孤独な中年のトイレ清掃業者のリアルな日常を洗練されたタッチでカッコよく描くような映画があればそれを観たいと思う。だけど、たぶんそんな映画は作られないだろう。
そもそも、日本の中高年のトイレ清掃業者を洗練されたタッチでカッコよく描くということが前代未聞の試みなのである。
日本映画界が見向きもしない、と言うより目を背けてきた題材、まさに臭いものに蓋をするような感覚で避けてきた題材で外国人監督に映画を作られてしまったのだ。それもメチャクチャ洗練された、カッコいい映画を作られてしまったのだ。
こんなものを見せられてしまったら、いったんはヴィム・ヴェンダースに「恐れ入りました」と言うしかないではないか。
外国人監督が日本を舞台にして撮った映画の中ではずば抜けた傑作と言っていい映画だと思う。
この映画は過酷な現実を無視した夢物語かも知れない。確かに映画の中には過酷な現実をしっかりと見据えるような、そういうタイプの映画もあるだろう。
だがこの映画は、いささか人生に疲れている中高年男性にほんのいっとき夢を与え、ほんのいっとき休ませてくれる、そういうタイプの映画なのだ。
それがこの映画の全てではないにしても、この映画は人を夢の世界にいざなうタイプの映画だと自分は思っている。
そんな現実離れした夢の世界は自分には必要ないという人もいるとは思うけれど、そういう人たちはそもそも過酷な現実としっかり向き合える強い人たちであり、映画というひとときの夢を楽しむ装置自体を必要としない人たちだろう。
根っからの映画好きである自分は、少なくとも、独身かつ中高年の単純肉体労働者の過酷な日常を洗練されたタッチでカッコよく描くような別の日本映画が現れるまでは『PERFECT DAYS』を推奨し続けることにする。
自分は音楽に詳しくないので個々の曲についての言及は避けるが、極上の音楽が抜群のセンスによって絶妙に配置されており、この音楽と映像の融合に浸るだけでもこの映画は観る価値があると言えるだろう。
日常に感じる幸福感は西洋人も東洋人も差がない
『ベルリン天使の詩』の監督さんが日本の公衆トイレの清掃員を主役にした映画をとって、それを役所広司さんが演じるというので、必見だ!と思っていた作品です。でも、(日本のトイレ清掃員を貧者のキリストとして聖人とみなして描いた作品だったら重くてしんどいなあ、西洋人富裕層のメルヘンだよ…)とみる前から深読みしすぎて疲れてしまって、結局映画館に行かず、気が付いたら、見るのを避けていました。
25年になって実際に見てみたら、難解さを感じないシンプルなお話で、子供がみても理解できるストーリーでした。心が癒される場面も多くて、なにより役所さんが素敵で見るのが楽しかったです。
清掃員の平山さんはこの仕事が好きなんだというのが分かってきて、でもインテリっぽい人で、昔はお金持ちだったんだろうなあというのが分かるように描かれています。なのでホワイトカラーの仕事を辞めてお給料の安い清掃員をやっているので、わけありなんだろうなあと察してみたい。でも、清掃員の仕事をしている平山さんの人生は充実していて、とても幸せそうに見える。
深読みが止まらない作品で、映画を見終わったあと、一緒に見た人と自分の深読みを発表し合って、語り合いまくりました。
それで、この作品は平山さんが劇中で読んでいる「本」と平山さんが聞いている「音楽」のリストが公式HPにあるので、平山が何を思い何を考えている人間かを深堀りしたい人は、公式HPに紹介されてる本を買って、音楽を聴いて、映画の内容を思い出しながら楽しむことができます。
映画で使われている音楽はほとんど洋楽なので、平山さんが聞いていた音楽の歌詞の和訳を探して読んでみましたが、(ああ、この作品、本当に難しく考える必要のない映画だったのかも)と改めて思わされました。
なんで難しく考えようとしてしまうんだろう……。
そういえば監督の代表作ともいえる『ベルリン天使の詩』も、子供が見ても理解できるお話だったのに、当時の学生の間では深読み大会だったし、ヴィム・ヴェンダース監督作品はなぜかそうなってしまいます。
でも、冷静に考えてみると、役所さんは今年69歳で、69歳で働き続けたいと考えて仕事を探すると、警備員か清掃員が多いという話を聞いたがあります。だから、別に「貧者のキリスト」でもなんでもなくて、69歳の日本人の普通の日常を淡々と描いた作品ともいえるのかもしれないし、あまり難しく考えるの止めようと思いました。
自分の生活を直視させられているようだった
贅沢な暮らし
トイレ掃除で生計を立てる平山(役所広司)の毎日の暮らしを、ただただ追う映画なのだけれど、この映画を見終わったあとすごく満ち足りた自分がいた。役所広司さんの表情の演技がとてもよく、平山の生活がとても「贅沢」で「豊か」に見えた。
お金はない。けれど、暇はある。
けれど、平山は退屈していない。
古書店で本を買っては、毎夜少しずつ読んで、朝には植物に水をあげる。昼食は神社の一画でとり、光や影、木々を浴びてはたまに写真を撮る。目的はない。誰に自慢するわけでもない。平山は、それを“快”としてただただ享受する。
そんなルーティンのような毎日も、同じようで同じでなくて、姪が現れては嬉しくなったり、恋情で寂しくなったり、勝手に仕事を辞められて怒ったり、人にちょっとだけ優しくしたりする。でも、それは確かに平山自身の感情で情動で、いちいち感情に機微があることは、実はとても豊かなことなのだと思った。
日々新しいものが生まれ、競争し、いつも焦燥に駆られるような毎日。SNSや広告に煽られて、ないはずの欠落を刺激され、消費や承認で埋める日々。だけれども、「今すでに満ちている」と知っていれば、光や影、木々、感情の機微でさえも、享受するばかりで、それは「贅沢」になる。
だから、こう考えるとよいのかもしれない。
「もうすでに、誰の日々も完全である(PERFECT DAYS)」、と。
終始退屈な映画だったと感じる方もいると思うが、是非観て欲しい。 仕...
終始退屈な映画だったと感じる方もいると思うが、是非観て欲しい。
仕事はトイレ清掃員、勘木を好み、木漏れ日をフィルムのカメラに収め、銭湯に通い、馴染みの飲み屋に寄り、文庫本を読んで寝落ちする。決して贅沢な暮らしでは無いけど、最小限の日常で趣味やささやかな楽しみを出来るほどの稼ぎで幸せを感じることが出来る。生きていくことが出来る。
これは普通の事だけどこの生活で満足したり、納得し、幸せを感じることができる人は中々いないと思う。実際私はこういう暮らしに憧れを抱きながらも、結局は贅沢な暮らしをしたいと思ってしまう。
だからこそ私はこの映画がすき。頑張らなくていい、こういう暮らしでいい、これも幸せなんだと教えてくれるから。
本当に何もない言葉さえ発しない序盤部分が一番心地よかった。
何もないを演技した役所広司は凄いなと思った。
ただ、自分がこの映画を観たタイミングとか波長がたまたま合っていただけで、退屈だったって人の感想にも納得出来る。
残念だった点は、平山が実在していてその生活をのぞき見しているような気分でいたのに、突然人の意思が見えてしまうような瞬間がいくつか見受けられた部分。
ラストの影踏みや平山が歌い出すところ、突然の若い娘からの好意等、それらの部分のわざとらしさに制作者の意図が見え透いて、さっきまで生きていた平山が急にお芝居をさせられている役所広司になってしまった。
歌う部分の不自然さについては監督が外国人である為しょうがないのかもしれないが、若い同僚の彼女に好意を持たれるという、おっさんの気持ち悪い願望が透けてしまったのはいただけなかった。
うーん分からない
❇️『些細な事が幸福感になるバイブル!』
圧巻のエンディングシーン
坦々とした日常に引き込まれるのはなぜだろう。
評価しないのは見る目が無いんだぞ的なワザとらしさが強すぎます
この作品をいい作品だったと言う事は誰にでもできると思います。日々の労働と小さな楽しみ。起伏の無い人生に時々少しだけ起きる波風。でも、日日是好日という感じで、次の日が始まる。お金が欲しい、幸福の追求せねば、何かを成し遂げなければ…という人生に疲れている人にはなかなか効く映画…に見えます。
ただ、これって「効く映画」なんですよね。実は映画の内容と意図が逆転してしまっている気がします。映画にするためにわざと作り出した淡々とした生活と、イベント。文学かと言われれば、文学的意味性をノスタルジー的感情を含めて強要していて文学ではなくなっている気がします。それがトイレ掃除という職業を対等に見ているようで見下しているクリエータサイドのエゴを感じます。
そして、ラストに泣きのシーンがあるので、今までこの男は人生を静かに楽しんでいたかもと言う、あるいは人生は生きていることに意味がある的なひょっとしたら感じたかもしれない味わいが、生き疲れた人間の希望が破壊されたように見えます。
全体的に内発的に沸き上がった表現したいという欲求よりも、それっぽいものを作った感を強く感じました。要するにきわめてワザとらしい映画だという事です。「評価しないのは見る目がないんだぞ、お前らわかってるな」的な映画の位置づけと相まって、ちょっと気分的に乗っかれないエセ文学臭がする作品でした。
なお、この映画なら役所広司じゃないと思います。他の俳優含めて全員あえて素人を使えばよかったのに。そこも減点要素です。
麻生祐未
おっさんモーニングルーティーン映画NO1
選曲が泣ける
主人公の平山が持つカセット・テープで、運転中に曲が流れるというシチュエーションが何とも嬉しい(懐かしい)。東京の街がだんだん明けてくる雰囲気といい、これだけで映画が十分に成り立っているような気がする。
選曲がまた秀逸。
・朝日のあたる家(アニマルズ)
・Pale Blue Eyes(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)
・ドック・オブ・ベイ(オーティス・レディング)
・レドンド・ビーチ(パティ・スミス)
・めざめぬ街(ローリング・ストーンズ)
・青い魚(金延幸子)
・パーフェクト・デイ(ルー・リード)
・サニー・アフタヌーン(キンクス)
・朝日のあたる家(浅川マキバージョン/ここだけ、石川さゆりが唄う)
・ブラウン・アイド・ガール(ヴァン・モリソン)
・フィーリング・グッド(ニーナ・シモン)
ヴェンダース監督の音楽趣味がよくわかるし、ほとんど知っている曲だから嬉しかった。それに、パーフェクト・デイとフィーリング・グッドは重要なテーマ曲。
しかし、最初「青い魚」は記憶のある声だけど、誰だかすぐにわからなかった。エンドロールで見て「金延幸子」とは!なんで知ってるの。欧米では有名なのかしら?多分、50年ぶりに聞きました。
主人公とともに、自分の時間が自由に漂っていくようで、気持ちよかったです。
ヴィム・ヴェンダース監督作品だったとは!
映画を見る時は、ほぼ何も情報を入れないようにして
(入っちまっても脳みそから追い出して忘れた状態で見るようにして)
そうやって見るものですから、見たあとクレジットで気づき
若い頃「パリ・テキサス」を見たことがあり、意味がわからず、何だこれは?と
名作と言われているのにわからなかった自分に自己嫌悪が襲ってきたりして
それで、ヴィム・ヴェンダース作品は自分にとって「鬼門」だったのだけど
知らず知らず見て、結果、自分も年を取ったせいか
猛烈に心に響いた。音楽も風景も、俳優さんが他の演技も何もかも素晴らしかった。
(特にラストシーンの選曲と演技には目頭が熱くなりました)
自分にも毎日の暮らしのルーティンがあり
二人で暮らしていた母が入院してから半年。一人暮らしをしていて
いよいよ先日母が亡くなってしまったので、一人暮らしが本格的になった今
この作品の主人公の平山ほどではないけれど、どこかしらアナログなところも重なり
毎日が同じようで同じではない、みんな一人ひとりに世界があり
それはとても愛しく、また、尊い毎日なのだと、改めて感じて心に沁みた。
決して派手さはない、というよりむしろ地味な映画ということになるのだろうけど
これこそが「PERFECT DAYS」だと思った。
ボクにはボクの、みんなにはみんなの「PERFECT DAYS」が繰り返される。
毎日を丁寧に生き暮らす。本当に素晴らしい作品でした。
今なら「パリ・テキサス」もわかるかもしれない。そんな風に感じた。
全740件中、21~40件目を表示