「【慎ましやかな子守唄】」PERFECT DAYS 芥さんの映画レビュー(感想・評価)
【慎ましやかな子守唄】
前々から見たいと思っていたので、やっと鑑賞できた事だけでも喜ばしいのですが、蓋を開けて見ると、想像以上の御馳走が飛び出してきました。
生きるのに疑問を抱いている方への、一か八かの治療薬のような映画に感じましたね。
今作は“何も起こらない”と言えば、“何も起こらない”です。映画で良くある、鑑賞者の情緒を揺さぶる劇的なシーンも無ければ、直接的で解り易いメッセージも無い。
良くも悪くも、人間の“日常”です。
これは賛否が分かれそうですね。ノスタルジックで、少しペシミズムさえ、捻くれた僕は感じてしまいました。
個人的な意見としては、ラストシーンなんか丸ごと悲観主義にも感じましたね。「変わらない日常が素晴らしい」、まさに PERFECT DAYS みたいな意味合いかと思っていましたが、何か違う。「抜け出せない不安」みたいなものも孕んでいるのではないか、と感じました。
前に建っていた建物が思い出せないシーンなんかは、変わらない日常を愛していたのに、変わったら気付けない。それは本当に愛していたのか。変化しない事に不安を覚えるから、なんとか不変を愛そうと、自分を納得させているのでは無いか。そんな風に僕は捉えました。
それに、主人公『平山』さんは元々いい所の出だったのでしょうか?妹(姉?)さんがニコを迎えに来たシーンは、運転手のような人が付き添っていたり、高級そうな車に乗っていました。
そして、「本当にトイレ掃除してんの?」という台詞。元々は高貴な立場だったのに、オンボロアパートに住み、トイレ掃除をしているなんて可笑しい。みたいな意味合いの台詞にも、僕には取れました。
『平山』さんは父親との諍いの末、お金を捨て、孤独を買ったのでしょうか。興味深いです。
そして、物語が“悪意”から始まるのは良いですね。
清掃中でもお構い無しに使用してくる利用者だったり、子供を引き取ったお礼も言えない母親だったり。
そういう日常に潜んだ“無意識の悪意”と言うものを序盤に持ってきて、『平山』さんは、意にも介して居ないような様子。が、物語終編、しっかり人間関係や日常に潜む「無意識の悪意」に『平山』さんが苦しんでいる。かのような表現は、『平山』さんという人間を深く表していると思います。
今作の主人公である『平山』さんの情緒が理解できるか、又は理解した気になれるかが、この映画の評価の決定的な分岐点でしょうね。
僕自身、読書や映画鑑賞等が好きで、孤独を楽しもうとする節があり、孤独に耐え兼ねそうな今、この映画を見た事によって、人生への向き合い方が変わりそうです。
[人生を変える映画]とまでは行かなくても、[人生を見つめるきっかけ]を授けてくれるような、『平山』さんのように優しい映画だと、僕は思いました。