「理由はうまく説明できないがなんかよかった」PERFECT DAYS kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
理由はうまく説明できないがなんかよかった
人生の幸福度ってどんな尺度で測るかでまったく違うものになる。収入がいいとか、家族がたくさんいるとか、趣味が充実しているとか。しかも、この程度で幸せと感じる人もいれば、まだまだ物足りないと感じるか、その満足度も人による。
だから本作の平山が送る日々がとても慎ましくて、地味なものであっても幸せそうに見えてしまう。東京の公衆トイレを清掃する仕事をしながら、余暇として音楽を聴いて小説を読んで酒を嗜む。同じような毎日の繰り返しの中で起こるいくつかの出来事。映画の中で起こる出来事としては大きいと言えるものではない。でも、淡々とする中でキチンと事件として成り立っていたし、物語の起伏の加減が絶妙だった。
本作の見所はなんといってもラストの役所広司の表情じゃなかろうか。カンヌで主演男優賞を受賞したのも納得の演技。人生とは幸せとは、そして人生の締めくくりについて、穏やかな空気感の中で観ている人間に静かに問いかけてくる気がした。
個人的には平山が聴いている音楽がよかったのもポイントが高い。東京の街並みを走る車中でかかる、パティ・スミスやヴァン・モリソン、ルー・リード、サム・クックといったアーティストの曲。これがとても心地よい。姪っ子の名前がニコってのも意味深だったりする。あの妹も昔はヴェルヴェッツとか聴いてたんだろうか。そう考えると彼らの過去に何があったのかも気になるところ(ほぼ触れられないけど!)。
ものすごく感動したわけでも涙を流したわけでもないのになんかよかったなと思える不思議な映画だった。平山とはまったく違う生活を送っているのに、あなたはそのままでいいんだよと優しく肩を叩かれた感じがする。それは年をとったということなのかもしれない。でもそれでいい。これから自分にもまだまだ平凡で完璧な日々が待っているかと思うと楽しみだ。
フォローありがとうございます
私、10年位前から、キネマ旬報、kinenote、Yahoo映画レビューなどに映画レビューを投稿しています。現在の目標は2回目のキネマ旬報掲載です。こちらのサイトには2022年2月に登録しました。
宜しくお願いします。
本作、前半はルーティン化された規則正しい主人公の生活を描いています。日々小さな喜びに満たされている主人公の姿を描いています。
後半は、そんな主人公のルーティンが仕事と人間関係で崩れる現実を描いています。作品の主題は後半にあると感じました。どんなにルーティン化された規則正しい生活をしていても、人間社会で生きている以上、色々な柵に邪魔されます。自分の思い通りにはいかなくなります。
それで良いのだと思います。色々な柵こそが、人間社会で生き、必要とされる証だからです。生々しい現実の中で前半のような理想のDAYを交えながら、仕事、人間関係と折り合いを付けながら人間は生きていくものだと思います。本作の題名がDAYSでありLIFEでないのは納得です。
ー以上ー