「こんななふうに生きていけたなら…」PERFECT DAYS sakaruさんの映画レビュー(感想・評価)
こんななふうに生きていけたなら…
ヴィム・ベンダース監督と言えば昔池袋にあったアムラックスシアターでトヨタとの匂いを感じるロードムービーを数十年前に見て以来。地元での公開予定なく、大都市へ出掛けた際に鑑賞できた。
TTTの活動啓蒙のためのプロパガンダの側面を持つということで、渋谷の清掃作業員のリアルではなくあくまでもリアルっぽさを描いた、映画のキャッチコピーのような大人のファンタジーとも言えなくもないが、とにかく俳優陣、特に主演の役所広司さんが丁寧に演じる平山の表情、呼吸、感情の揺れの一つ一つに魅了された。
無口な平山だが、後輩や馴染みの小料理屋の女将、家出してきた姪など、描かれない過去から自身が選んだ最低限の人間との交わりの中で、日々変わる木漏れ日のように日常が揺らぐ。
特に姪との交流では、「家出をするならおじさんの所と決めてた」と慕われ、仕事場や銭湯に連れていくなど自分の住む世界を案内はするが、それ以上の慕情は決して受け入れない。姪の一緒に海を見に行きたいとの願いに「今度は今度」と答える平山が切ない。
平山から連絡を受け、運転手付きの高級車で姪を迎えに来た妹と対峙する場面。兄の暮らしへの心配と呵責の混ざった妹の言葉から、かつての平山の住んでいた世界が想像される。平山はここでも葛藤は見せまいとするが、笑顔で見送る涙に心が揺さぶられる。
スマホなどのテクノロジーとは無縁の暮らし。時折現れる東京スカイツリーに象徴される商業主義と対極にある銭湯やカメラ屋、居酒屋、古本屋などが平山の住む世界である。ラストシーンのなんとも言えない表情に、彼の愛する世界も併存する将来であればと思った。