「ニーナ・シモン「Feeling Good」に心震える!あまりにも深いありふれた日常のその意味とは・・・」PERFECT DAYS 菊千代さんの映画レビュー(感想・評価)
ニーナ・シモン「Feeling Good」に心震える!あまりにも深いありふれた日常のその意味とは・・・
feeling good「最高の気分だわ〜」
ラストに流れるニーナ・シモン歌うこの曲に全てが集約されている様に思う。
(他の方のコメント見ていないので重複した感想になるかもしれません)
ニーナ・シモンは1950〜70年代のジャズ、フォーク、ブルース、R&B、ゴスペル歌手、ピアニスト、公民権活動家、市民運動家。そう彼女の人生はそれこそ差別や偏見の波に翻弄された人生だった、クラシック音楽家を志したニーナは名門カーティス音楽院の入学を拒否される、溢れた才能があるのに黒人でありしかも女性のミュージシャンであるという事でその存在は音楽業界において忌避されるようになった。それが、当時のアメリカの音楽業界であり、アメリカ社会の現実だった。
「feeling good」その曲のタイトルはとても明るく意気揚々なタイトルなのに曲調は決して明るい曲では無い、重苦しい中から搾り出すような魂の叫び、それはまさに彼女の人生でもあり差別や偏見に晒されていた人達全ての叫びであったのだろう。
この作品でも淡々とした日常、朝家を出る時空を見上げて微笑む平山(役所広司)の表情は一見幸せな様にも見える、しかしその実は・・・ラストに車の中で微笑むその目にはみるみるとこらえきれない思いが溢れ、こぼれ落ちそうになる。
多くの“言葉”が無くてもその表情に込められた思いはあまりにも深すぎる、深すぎる、深すぎる。
人それぞれ背負ってたものは色々あるだろう、でも自分の人生の中であんな風に微笑みを浮かべながら涙を流す事はあっただろうか?
平山のありふれた日常、あの微笑みの裏には「ただ、トイレ掃除をするおじさんの話し」なんかでは無い「微笑みながらも涙が溢れてしまう様な日々」があったのかと思うと、えも言われぬ何かが込み上げてくる・・・。
そして
もう一つ裏に込められたキーワードは「アナログ」かもしれない。
平山が音楽を聴くのはカセットテープ、写真はフィルムカメラ、デジタルが当たり前の現代において日常使っているものはアナログなものばかりだ。
アナログってどう?古い物?デジタルより劣ってる?いやそんな事は無い、CDとレコードの音にしても自然界に存在する音は基本的に全て「アナログ量」の信号、デジタルはあくまでアナログの信号である音のデータをデジタルデータ化して「近似」する形で記録しているに過ぎないのだ、つまり人間が聴き取れ無い、必要が無い音=情報は排除されてるという事だ。
自分達が見たり聴いたりしているものが全てであり真実なのだろうか?身近な音や映像にしても気付かぬうちに“不要”とされた情報が削除されている、世の中の全ての情報も結局のところ真実の全てであろうはずが無い。
気づかぬうちに排除されているがその隙間に間違い無く存在するアナログ=真実の情報そのものを見極める事がとても大切なことなのではないのだろうか。
勝手ながらそんな風に解釈した。
Oh, freedom is mine, and I know how I feel.
It’s a new dawn, it’s a new day, it’s a new life for me.
And I’m feelin‘ good.
ああ、自由をやっと掴んだわ、そしてこの気持ちを噛み締めるの。
夜が明けて、新しい一日が始まる、私の新しい人生。
最高の気分だわ(〜ってもう言葉には表せない!)
多分もう一度この作品を観たら、涙が止まらないかもしれない。