「評価低い?私は面白かったです!」メイ・ディセンバー ゆれる真実 ほりもぐさんの映画レビュー(感想・評価)
評価低い?私は面白かったです!
シリアスなドラマだと信じて最後まで見た後で、「これはコメディだったのか!?」と気づきました。
腹のさぐりあいや意地の悪さが前面に出ていて、オモシロ要素に気づきにくかったのです。私も理解力がまだまだだと気落ちしました。
父親ジョーががすごく若いので、誰が親なのか子なのか兄弟なのか…やはり異常さをそこはかとなく感じます。
そしてグレイシーの子どもたち、皆どこかしら違和感のある性格をしています。
これは人によって見方が異なるでしょうが、私は彼女が何かしらの精神疾患を抱えている、ように見せる芝居をしていたと思っています。
それも病的といえば病的で、人をコントロールするタイプの人間であるジュリアン・ムーアが本当に怖いです。
主要人物は3人。
36歳→59歳になった妻グレイシー。13歳→36歳になった夫ジョー。そして、映画化の役作りのために接近してきた女優エリザベス36歳。
冒頭の印象は、明るく一見人柄の良さそうなグレイシー、少しぼんやりしていて幼い感じのジョー、洞察力を発揮して二人を見つめるエリザベス、という感じ。
見ている側は、エリザベスに感情移入し、グレイシーにあると予想される心の闇が暴かれていくのを期待します。
しかしそれはミスリードであり、思わぬ展開になっていきます。
冷静にグレイシーとその周辺のリサーチをしていたと思われたエリザベスですが、徐々にエスカレート。グレイシーをミラーリングし、一体化していきます。
そしてついにはジョーを誘惑して寝取ってしまい…怖い怖い!
完全に役作りの域を越えて、グレイシーは小児性愛者なのではないか、ジョーを手なづけた(グルーミングした)のではないか、そうなった原因は兄からの性的虐待にあるのではないか…そんな疑念と確信を重ね、グレイシーという人物になりきっていくのでした。
いやそれは「なりきったつもり」だったのかもしれません。
他にも、グレイシーの支配下にあったジョーが、精神的に自立していく物語があり、グレイシーもまた見た目に反して非常に業の深い人物として描かれています。
三者ともに闇が深く、とても複雑な感情でねじれ合っているわけですが、終盤になってエリザベスがつかんだと思っていたグレイシーの本質が、間違っていると暗に指摘されます。
煙に巻かれ、呆然とするエリザベス。
彼女はそのままグレイシー役として撮影に望むのですが、これまで一体何をリサーチしていたのかと思わせるような、メロドラマを演じます。
ゆれる事実というタイトルは皮肉で、結局映画として消費される事実は、本来の複雑さを表現しきれるものではない、という映画となっています。
この入れ子構造がとても面白いと感じました。
結果的に二人の女性のどちらが勝ったのでしょうか。
本当の自分を明らかにさせなかったグレイシーの勝ちか、ジョーを寝取ったエリザベスの勝ちか…。
私は、エリザベスの敗北のように感じました。
彼女の介入によって夫婦のあり方が紐解かれていきましたが、一方のエリザベスは、グレイシーの真の姿をつかんだかというと、そうでもないからです。
エリザベスという女性の怖さは年季が入っており、そこらの人間では太刀打ちできないものだったのではと感じています。
映画サイトでの評判はいまひとつのようですが、私にはとても面白い映画でした。