「音と映像の巧みな演出により、心地よい空気感に浸れる秀作」ポトフ 美食家と料理人 Toruさんの映画レビュー(感想・評価)
音と映像の巧みな演出により、心地よい空気感に浸れる秀作
第76回カンヌ映画祭監督賞受賞、ベトナム出身のトラン・アン・ユン監督作品。
19世紀末のフランスを舞台に、料理への情熱に溢れ、自らも調理する美食家と卓越した技術を待つ料理人の女性、20年以上共に暮らすこの二人の静かな愛を、ミシュラン三つ星シェフのピエール・ガニェールが監修した料理とともに、美しく描いたフランス映画。
名女優ジュリエット・ビノシュら役者たちの秀逸な演技の下、ストーリーはゆっくり、かつドラマチックに展開していく。調理の場面のみならず、シーンの多くがワンカットで撮影されており、その卓越したカメラワークは息を飲むばかり。
長い尺の調理シーンの映像もよかったが、何より素晴らしかったのは音。素材を捌いて切る音、調理や食器から出る音、足音、息づかい、屋外の小鳥の囀りなどの環境音。
エンドロール以外に音楽が一切流れない中、包まれる音に惹きつけられた点は過去一番。カンヌで監督賞を取ったことが頷ける。
題名であるポトフとはほぼ関係なく、途中ストーリーを端折って「えっ?」という展開もあるが、スクリーンから受ける美しさと音、その空気感が沁みる、そんなしっかり作られた映画。食に対する飽くなき追求という観点でも楽しめた。
それにしても、ひと皿の量が驚異的だったり、8時間以上に及ぶ食事会が催されたりと、フランスの美食家たちの胃袋の強靭さが、羨ましくもあり、とても印象的。
そして、次の回の入れ替え時に出会ったローブリューのシェフに鑑賞のバトンを引き継いだが、フレンチの料理人の目線で、この映画をどう観て感じるのか気になるところ。
ちなみに劇場に貼られたポスターは、東京国際映画祭で来日したからか、洋画には珍しく監督と主演男優の直筆サイン入りだった。
食にこだわる方にお勧めの映画。