劇場公開日 2023年12月15日

「繊細で深みのある愛情表現は元パートナー同士ゆえか。調理を流麗にとらえる映像に引き込まれる」ポトフ 美食家と料理人 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0繊細で深みのある愛情表現は元パートナー同士ゆえか。調理を流麗にとらえる映像に引き込まれる

2023年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

幸せ

萌える

優れたダンス/ミュージカル映画が冒頭に素晴らしいパフォーマンスのシークエンスを配して観客の心をがっちりつかむのと同じように、「ポトフ 美食家と料理人」も始まって早々、美食家ドダン(ブノワ・マジメル)と料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)がアシスタントのヴィオレットを指示しつつ手際よく食材をさばいて加熱し仕上げていく過程を、流れるようなカメラワークで躍動感いっぱいに撮影している。トラン・アン・ユン監督の演出意図を体現した俳優たちの演技と、彼らの表情、手や調理器具の動き、そして調理が進むにつれ音を発しながら色と形を変えていく食材を優雅に踊るようにカメラのフレームに収めた、撮影監督ジョナタン・リッケブールの貢献も大きい。

マジメルとビノシュは1999年に『年下のひと』で共演した縁でパートナーになり女児をもうけたが、2003年に別れている。彼らが演じるドダンとウージェニーも公私にわたるパートナーでありながら長年結婚しないままだったという設定であり、互いを想う繊細な感情の表現はそうした私生活の過去の経験がプラスに働いた印象を受ける。

ズアオホオジロのローストを食べる時に皿の真上に寄せた頭の上からナプキンをすっぽりかぶるという、変てこでユーモラスなマナーも描かれている(美食家でない評者は今回初めて知った)。ネットで理由を調べたら、香りを保つため、恥ずべき行為を神の目から隠すため、骨を吐き出す姿を他人に見られないようにするためなど、諸説あるらしい。

絶対味覚を持つ少女ポーリーヌを演じたボニー・シャニョー=ラヴォワールの無垢な魅力もいい。作中では料理の職人技の継承を担う役どころだが、フランスを代表する大女優ビノシュから未来のスターへバトンが渡されたような気にさえなる。本作が映画初出演のようで、今後の成長と活躍が楽しみだ。

高森 郁哉