「豊かで独創的なイメージの連続に酔いしれる」墓泥棒と失われた女神 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
豊かで独創的なイメージの連続に酔いしれる
傑作と評された前作『幸福なラザロ』に比べればやや取っつきにくいかもしれないが、しかし主人公の不機嫌さの表層をめくると、途端に眩いばかりの表現性の渦に飲み込まれる。かくなるイメージの連鎖を泳ぎつつ、観客が自ずとストーリー、状況、登場人物の心境をつかまえていく映画とでも言おうか。難解なことは何ひとつない。我々はただ、あの列車のコンパートメントから乗客がひょっこり顔を出すシーンのおかしさ、フェリーニ的な狂騒と祝祭、イタリアという名の女性の調子っぱずれの歌声、唐突な電子音楽へ包まれゆく奇想天外な味わいを受け入れるだけでいい。そうやってあらゆる描写が記憶となり、131分の愛すべきキメラ(幻想)を崇高に織り成していく。掘って、掘って、掘り続けた先にたどり着く結末も、もはや言葉では説明不要。あくまで映画的な言語として提示されるからこそ、心掴まれ、胸にすとんと落ちる。糸はまるで暗闇に射す一筋の光のようだ。
コメントする