「キネ旬よりは、カンヌ映画祭での評価順の方を納得する鑑賞に…」落下の解剖学 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
キネ旬よりは、カンヌ映画祭での評価順の方を納得する鑑賞に…
先日、「関心領域」という映画を観て、
全く知らない女優ではあったが、
この「落下の解剖学」と共に主演した
サンドラ・ヒュラーの2作品が
カンヌ映画祭のパルム・ドール
及びグランプリを受賞したとの話題性、
またキネマ旬報で共にベストテン入りした
と言うこともあり、
こちらの作品の方も初鑑賞した。
夫の自殺か他殺か事故かの裁判を
長尺に淡々と描くこの作品、ともすれば
間延びしがちな内容にも関わらず、
特に奇をてらう演出手法を使う訳でもなく、
公判においても、
冒頭の学生インタビュアーの証言、
続いて検死官~夫の精神科医の、
更にはUSBに録音された夫婦の会話の公開、
そして夫の友人の編集者の証言を経て、
最後には息子の証言、
等々、順を追って
事件の謎にせまっていくだけなのだが、
そのオーソドックスさの中での
次々と観客の興味を
先取りしていくかのような演出は、
私にとっても、鑑賞に向かう集中力を
全く途切れさせられることのない
濃密なサスペンスドラマに仕立て上げた
監督の力量には感服するばかりだった。
しかしながら、己の理解の及ばない場面も
多く、再鑑賞する羽目になったのだが。
それにしても、
母親の息子への愛情ゆえの苦悩。
また、息子の
父親の発言に自殺の可能性を見出すという
優れた洞察力が示されたものの、
彼の証言は、見えない真実の中で、
単なる選択として決断だけだったのか、
親子間の微妙な余韻の残る
エンディングだった。
ところで、話題となった
2作品共通の主演女優の話に戻れば、
「関心領域」では、髪型も違い、
ほぼクローズアップのないキャメラワーク
だったこともあり、
彼女のことはこの作品で初めて面相を拝見
するような感じだったし、
同じ女優との意識を持つこともなく
鑑賞することが出来た。
さて、キネ旬では「関心領域」の方が
評価が高かったのだが、
私的には、カンヌ映画祭での評価順通りで、
「関心領域」の場の設定における狙いは
見事ではあるものの、
演出と脚本の上手さの点においては
圧倒的に、この「落下の解剖学」の方が
優れているように感じた。