劇場公開日 2024年2月23日

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「深読みすべき作品」落下の解剖学 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5深読みすべき作品

2024年9月28日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

落下の解剖学
落下とはサミエルの死の原因ではなく、人生の落下を描いているように思った。
サミエルの死は事故か自殺か、それとも他殺か?
凶器が見つからないまま、状況証拠だけが積み重なっていく。
さて、
夫サミエルと妻サンドラの口論の録音
裁判で最も白熱したシーン
サミエルの主張とサンドラの主張の対立
それは真っ向からぶつかっているように見えるが、サミエルの主張には自分勝手さが多いように思う。
サンドラは至って冷静だが、冷酷でもあるように感じた。
正論ほど冷酷なものはない。
息子ダニエルの事故の原因
サミエルは書くのに夢中になってしまい、迎えに行けずメイドに依頼した。
帰宅途中で起きた事故で、ダニエルの視神経が損傷し、ほとんど見えなくなってしまう。
この事故を引き起こしたのが自分の所為だと嘆くサミエル
すべての元凶であり、彼の人生の落下地点でもある。
息子の治療費のために教師になり、息子の世話をしながら執筆活動するが、やがてお金の問題を抱えフランスに帰省し、山小屋を買って生活費を抑えるが、山小屋購入分の借金が重くのしかかってくる。
山小屋の修繕に加えB&B開業へ向けての改装
気づけば全く書く時間がないことに気づく。
これが本人を深く傷つけることになる。
サンドラは執筆活動で成功
この差がサミエルの新しい苦悩となる。
そうした背景があって、あの録音された口論となった。
検察は、
そうした状況からサミエルの死を、サンドラによる殺人だと追及する。
さて、
最終的にダニエルの証言が功を奏し、サミエルの死は「自殺」だったと結論付けられた。
彼の遺体の状況から、3階から落ちたのは間違いないようで、彼の人生の落下ポイントが実際に「落下」死ということで終焉する。
解剖されたのは落下そのものではなく、サミエルという人物とサンドラという人物像だったというのがこの作品の締めくくりとなっている。
しかし、
裁判が終わった後の余韻が妙に長く、真実が最後に出てくるのではないかと期待したが、そんなものは出てこなかったことが少し拍子抜けした。
この変な余韻に隠されていたのが、サンドラがようやく自由になれたことで、それが大きな喜びのように感じると思っていたが、実際に安堵感はあったものの自分という人間を世の中にさらけ出してしまったという恥にも似た感覚だったのだろうか?
さて、、
深読みをしてみる。
ダニエル
彼はいつも両親の口論を聞かされていた。
その根源が視力を失う事故に由来する。
失明 高額な治療費 父の人生を大きく曲げたこと 両親の不仲
おそらく彼は家庭崩壊を間近で見続けてきた。
家族の落下を俯瞰的に解剖できる唯一の人物
そして倒れている父の第一発見者
ダニエルは証言する前に、監視人のマルジュに相談を持ち掛ける。
彼女は「自分で決めるのよ」と進言した。
ダニエルには確信がない。
しかし彼女は「確信がなくてもどっちか一つに決めろ」と言った。
「母はやってない」
これはダニエルの希望的観測だ。
これに加わったのが、父と一緒に犬を病院へ連れて行った時の父の話だった。
それは聞きようによっては自殺をほのめかしている。
これが裁判で決定打となった。
そうして無罪を勝ち取ったサンドラは弁護士と一緒に祝杯を挙げるが、気分は思ったほど良いものじゃないと打ち明ける。
それはすなわち、サンドラはサミエルを突き落としたことを、自分だけには隠しようのない事実だと知っているからだ。
良心の呵責
決して晴れることのない心の闇を彼女は同時に持ってしまったと解釈した。
また、
酒と一緒に薬を飲めばどういうことになるのか、大人であれば知っている。
サミエルが酒を飲んで嘔吐して、その中にあったアスピリンの粒という彼女の証言
その嘔吐物を犬が食べた後に、サンドラがそれを片付けた。
ダニエルはその証言を聞いて「何を信じたらいいのかわからなくなった」と言った。
ダニエルは犬がゲロ臭かったのと、その後の犬の様子を思い出す。
当時そのような出来事があったことをサンドラはダニエルには話していない。
犬も頻繁に嘔吐する特徴を持つ。
なのにサンドラは何故それが夫のものだとわかったのだろう?
酒臭かったからか?
しかしダニエルは犬が酒臭かったとは話してない。
単にゲロ臭かっただけだ。
嘔吐物が酒であれば犬はそれを食べたりしないだろう。
このことから、夫は酒と一緒に大量のアスピリンを飲んだのではなく、単にアスピリンを大量に飲み過ぎて倒れ、そこで嘔吐したと考える。
しかも嘔吐物の中には錠剤痕はなかったはずだ。
アスピリンを飲ませたのはサンドラだろう。
つまりサンドラは、当時すでに殺人未遂をしたことになる。
一度やって成功したのではなく、2度目でようやく成功したのだろう。
裁判を乗り越えられたのは、その精神力があったからだ。
つまり裁判後の長い余韻は、サンドラの良心の呵責を描いている。
いま彼女は「これでよかったんだ」と自分に言い聞かせている時期だが、これが彼女に起きた人生の落下地点になるのだろう。

R41
ミカさんのコメント
2024年10月6日

コメントありがとうございます。観客の想像が膨らむ作品でしたよね。私も犯人は妻かなと思います。

ミカ
小町さんのコメント
2024年9月28日

返信ありがとうございます。
その頂いた返信にもまた「なるほど!」でした。
あの妻には全く好感が持てずでしたが、息子を思うと無罪であってほしいと思いながら観ていたんですけどねー。
やっぱりそうですよね。
あの夫婦の「落下の解剖学」、なかなか良いタイトルだと思えてきました。
丁寧な返信ありがとうございました。

小町
琥珀糖さんのコメント
2024年9月28日

丁寧なお返事ありがとうございます。
妻には夫の死を悼む気持ちも、明確な無罪の確証もないのですね。
そうですね。仮にも夫が突然亡くなったんですから、普通なら
悲しみにくれて落ち込み生きる意欲を無くすのが、普通ですね。
ミステリー好きなので、夫が嫌がらせで夫が自殺して、妻に罪をきせた事も
ありえるとかも思ってしまいました。
確かに妻の人格も悪意も衆目に晒されて解剖されたのは
憎み合う夫婦の姿でしたね。

琥珀糖
U-3153さんのコメント
2024年9月28日

返信ありがとです。

もう一度見る意欲が増しました🤩

U-3153
小町さんのコメント
2024年9月28日

共感ありがとうございます。
素晴らしい考察のレビューですね。
読ませて頂いてさらに理解できたように思えましたし、レビューを頭に入れてまた観たくなりました。
「解剖されたのは落下じゃなくて、サミエルとサンドラの人物像」、「人生の落下」大いに共感です。

小町
talismanさんのコメント
2024年9月28日

フランスに居るんだからフランス語話せよ!という夫の発言にはイラッときました

talisman
talismanさんのコメント
2024年9月28日

映画をもう一度見たような気持ちになりました。細かいところ、結構忘れているなあと思いました

talisman
琥珀糖さんのコメント
2024年9月28日

おはようございます。

ネタバレにコメントは出来ないのですが、
妻は夫にアスピリンを飲ませてフラフラにして、
その夫はふらつきで窓枠から落下した・・・と言うことでしょうか?
死体からアスピリンは多量に検出されたのでしたっけ?
良かったら、他殺説の詳細をお聞かせ下さいね。

琥珀糖
U-3153さんのコメント
2024年9月28日

人生の落下…面白い視点ですね。今度、それを念頭に見たら全く違う映画になりそうでワクワクします🤩

U-3153