「ラジオから流れる音声から、監督の強い想いを感じ取りたい一作」枯れ葉 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
ラジオから流れる音声から、監督の強い想いを感じ取りたい一作
ヘルシンキの片隅でひっそり生きるアンサ(アルマ・ポウスティ)とホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)の、溌剌とはほど遠いけど、お互いの細くてもろい絆を懸命につなごうとする物語。
なのですが、アンサとホラッパが耳を傾けるラジオから流れる音声は、ロシアによるウクライナ侵攻の状況を伝えるニュースです。この音声は、それぞれの場所にいる二人のつながりを暗示するだけでなく、遠く離れた日本の観客をも結びつけます。本作は決してカウリスマキ監督が作り上げた架空のヘルシンキを舞台にしているわけではなく、明確に「今、現在」の世界を描いています。なぜカウリスマキ監督がラジオから流れる音声として「戦争」を選んだのか、そこに引退宣言を撤回してまでも本作を取り上げた監督の強い意志を感じました。
アンサもホラッパも、苦しい生活の中で屈託を抱えて生きており、それが彼らの表情の乏しさと、「諦観」を発散し続ける所作として現れています。二人は世界になんの希望も見出していないようなのですが、それでも二人は偶然に結びついた縁を何とか紡いでいこうと、それぞれのやり方で努力を重ねていきます。
争いがなくなるどころかますます激しくなる世界において、良いところも悪いところも知ったうえでそれでも人の「えにし」の可能性を信じる。カウリスマキ監督は本作を通じて、巨大な破壊の中ではあまりにも儚くはあっても、人が人を信じる気持ちを持つ限り、まだそこに希望はある、ということを実感させてくれました。
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