「嫌な映画だけど気になってしょうがない」関心領域 ねきろむさんの映画レビュー(感想・評価)
嫌な映画だけど気になってしょうがない
映画全体の最初の印象としては、現代美術館で流しっぱなしにしているインスタレーションの映像をボーッと見ているような気分になって不謹慎にも気持ちよくなってちょっとウトウト。ほぼ全編を通して鳴っている「ゴーッ」という感じの音もいわゆるホワイトノイズ(空調の音とか、ジェット機のエンジン音)のようで心地よい(すみません)。
ただその音の中に不快な悲鳴や銃声らしき音が混じっていてそのたびに画面の状況に引き戻される。
よくよく見ると画面の中の様子も一見普通で平和に見えるが、まちがい探しの絵のように異質な部分が気になってくる。あれ、そう言えばなんであのメイド長靴洗ってんだ?とか、なんであのお母さん急に窓閉めたんだろう?とかいろいろ気になってくる。
そもそも関心領域というタイトルが絶妙で、個人的には視聴動機の半分はこれのせいだと言っていいくらい。
もちろん言葉自体はナチスドイツがつけた古いものだがたぶん「要監視区域」みたいなニュアンスであって、関心・無関心の関心とわざと曲解してみせたマーティン・エイミスはすごいなと思いました。
まさにヘス家の「関心領域」はヘス夫人ヘートヴィヒを中心に同心円状に広がっているが、基本的に無理やり自己暗示にかけてなんとかしようとしているので、子どもたちにはストレスが身体の不調として出てきているし、ヘス本人もアウシュビッツに帰れることになって喜んでいるにも関わらず、体が拒絶反応を起こしている。それから、ユダヤ人の灰や体に触れるとゴシゴシ洗うくせに、衣類や貴金属には平気で触れるのはなんか不浄観がバグってる感じで気持ち悪かった。
一見クールに見えるこの映画もジョナサン•グレイザー監督の熱い思いに裏打ちされていると思うと映画の見え方も自ずと変わってくる。
ラストシーンで未来を幻視したヘス。こっちを見て何も言わないけど「オレにとってはこれがベストの選択なんだ、なんか文句あるのか?おまえはどうなんだ?」と目で言っている。あっえーっと焦ってる間に、「おまえの答えなんか興味ねえ」と言わんばかりにさっさと階段を降りるヘス。
正直もう一度見るのは気が重い。でも見ていろいろ確認しないわけにもいかないそんな気分にさせる映画。