「不穏な音響で暴かれる己の無関心」関心領域 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
不穏な音響で暴かれる己の無関心
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通常スクリーンで鑑賞。
原作は未読。
始めから終わりまでずっと不穏で不快で、心にずっしりと重く伸し掛かって来る作品だった。収容所で行われる非道は音のみの表現で直接的な描写は無いのだが、充分に恐ろしい。生活の背景に、異常事であるはずの銃声や悲鳴が聞こえるのに、それがもはや日常だから意に介さない一家の姿に戦慄した。
中でもいちばん恐ろしいのは所長の妻だろう。鏡の前でユダヤ人から奪った毛皮のコートをルンルン気分で試着する姿に嫌悪感を抱いた。所長の異動が決まっても、子供のために今の住環境を手放したくないと曰うのにも顔が歪んだ。その生活にしたって、多くのユダヤ人の死が根底にあるはずなのに、これっぽっちも意識していないのだ。とても怖かった。
淡々と描くことで恐怖を醸成する手法が巧み。しかし、事前情報の段階での予想を超えて来なかったのは残念である。
とは言え、塀の向こうとこちら側の差を意識させ、心をざわつかせる音響は映画館でしか体感出来ないものだと思う。
己の無関心具合を、これでもかと眼前に突きつけられたようであり、しばらくは余韻が抜けそうに無い。傑作である。
※修正(2025/03/29)
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