劇場公開日 2024年5月24日

「想像力が試される」関心領域 cysteineさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5想像力が試される

2024年5月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

実在の人物、ルドルフ・フェルディナント・ヘスを描いたお話

描かれるのは裕福で幸福な家庭
広い家、広い庭、使用人も庭師も何人もいる何不自由のない暮らし

一家を支える父は部下たちからも誕生日を祝われるほど慕われ、
家にいる間でも電話で仕事をこなし、上司からも信頼の厚い真面目で勤勉で優秀な男
予期せぬ昇進で転任となり、今いる家を離れたくない妻との少々の口論を経て単身赴任をすることになり……という、まぁ現代にも通じるようなよくある家庭のお話

問題は、その豪邸からたったの壁一枚挟んだだけのお隣こそが、かのアウシュビッツ収容所であり、
ルドルフの立場がそこの所長であるという、
たったそれだけでもあり、それこそが世紀の大問題であるという事

本作中では、アウシュビッツの中での惨状については直接的には全く描かれない

それでも、その隣で幸福な生活を送っている家族の光景に重なって聞こえてくる声、銃声、何かを運んでくる汽車の煙、煙突から登る煙、川に流されてくるもの……
そしてラスト、ちょっと唐突に出てくる現在のアウシュビッツの様子と、そこに収蔵された山のような靴、カバン、義足や補助具、写真たち……
それらが何であるか、それを想像することが出来る観客は途轍もない空恐ろしさに見舞われる
出来ない観客にとっては正直ただただ退屈な一つの家族の起伏のない生活が描かれるだけ……という落差

徹頭徹尾、試されているのは観客が持つ予備知識と想像力。そういう映画です

cysteine