劇場公開日 2024年5月24日

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「不穏さをたたえる映像以上に、「音」の恐ろしさが際立つ一作」関心領域 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0不穏さをたたえる映像以上に、「音」の恐ろしさが際立つ一作

2024年6月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ホロコーストを描いた映画としては、『SHOAH ショア』(1985)や『シンドラーのリスト』(1993)、『サウルの息子』(2015)など膨大な作品が存在しますが、本作はアウシュビッツ(=ビルケナウ)強制収容所に隣接した邸宅を舞台にしていながら、収容所で何が起きているのか、直接描写していない点が大きな特徴です(周囲の状況をはっきり見せない、という点で『サウルの息子』と共通する作劇法とは言えます)。

収容所内で起きていることからあえて目を逸らして、平穏な日常を享受しようとする収容所所長家族ですが、もちろん視界に入れなければ事態に触れなくて済む、というものではなく、遠くからは絶えず不穏な物音や悲鳴のような声が聞こえてきます。そしてさらに、映像では伝わってきませんが「臭い」も。

作中でたびたび清掃をする場面が登場するのですが、それはこの、臭いの存在を観客に伝えるための表現ではないかと思いました。

『落下の解剖学』でも謎めいた人物を演じたザンドラ・ヒューラーが本作でも収容所所長の妻、ヘートヴィヒ・ヘスを演じていますが、本作の何が恐ろしいかって、自分たちが何をしているのか知りながら、そこから得られる利益を当然の権利のように受け取っている姿です。その本性が現れる後半のあるセリフは背筋が凍り付くほど。

ホロコーストだけでなく、今現在も生じている重大な問題から目をそらして平穏な日常を維持しようとする我々すべてに、もう一度自分自身を見直せ、と迫ってくる本作。鑑賞には予想以上の覚悟が必要でした……。

yui