「ウェス・ワールド全開!」アステロイド・シティ ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
ウェス・ワールド全開!
ウェス・アンダーソン監督らしい遊び心に満ち溢れた作品である。
まず、映画の構造が少し変わっていて驚かされた。アステロイド・シティで起こる悲喜こもごもは劇作家が描く劇中劇という形になっている。映画はそこを中心に展開されていくのだが、その合間に劇作家自身のドラマが挿入され、更にそれをテレビキャスターが紹介するという、言わば三重の入れ子構造になっているのだ。
映像はモノクロとカラーにきっちり描き分けられており、アステロイド・シティを舞台にした劇中劇はポップで鮮やかな色彩で表現され、それ以外はモノクロとなっている。
ただ、物語に関しては、これまでの作品に比べるとかなり薄みに感じられた。オムニバス形式だった前作「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊」以上にドラマは空疎で、たくさんのキャラが登場する割に余り盛り上がらない。
一応、主人公オーギーとヒロイン、ミッジのロマンスや、オーギーの子供たちの成長といったエピソードが語られるが、いずれも表層的で物足りなく感じられた。
一方、映像に関しては、これまで通りカラーパートはパステルカラーを前面に出したトーンが徹底され魅了された。完璧にコントロールされたカメラワーク。シンメトリックな構図。アートギャラリーのように配された小物。どのカットを見てもスキのない画面設計に唸らされる。
この独特な映像は「グランド・ブタペスト・ホテル」、「フレンチ・ディスパッチ~」を経て完成の域に達したと思ったのだが、まだ進化の余地があったということに驚かされる。特に配色に対するこだわりは、これまでの作品の中ではピカ一ではないだろうか。
尚、個人的に最も面白かったのは、ジュニア宇宙科学賞の表彰式のシーンだった。ネタバレを避けるために伏せるが、ここでオーギーは”ある写真”を撮るのだが、これが正に衝撃的な一枚で笑ってしまった。そして、この写真は後に構図が丸被りなミッジの写真と並ぶ。そこでまた笑ってしまった。
キャスト陣は今回も豪華である。
ウェス映画の常連であるジェイソン・シュワルツマン、ティルダ・スウィントン、エイドリアン・ブロディ、エドワート・ノートン、更に今回はスカーレット・ヨハンソンやトム・ハンクスといった大物も登場してくる。
もっとも、ジェイソン・シュワルツマンとスカーレット・ヨハンソンは目立っていたが、それ以外のキャストは今一つ…。夫々の個性を活かしきれていないのが勿体なく感じられた。