「映画はフイルムに還る。」アステロイド・シティ zapsanさんの映画レビュー(感想・評価)
映画はフイルムに還る。
隕石の落下跡をウリにしたアメリカの架空の街を舞台に起こる突拍子もない事件を、1955年のTV劇中劇という重層設定で描く群像コメディ。同作品の予告編を観たときの、期限切れカラーポジフィルムで撮ったような不思議な「色感」に惹かれて飛びついたが、スペインの広大な敷地にポップでレトロな街を造り込んだり、昨年の米映画『バビロン』で主役を張ったマーゴット・ロビーや我等がトム・ハンクスといった一流どころを端役として起用するといった贅沢なツクリ、カラーとモノクロを巧みに使い分けながら展開する美しい映像には目を見張るものがあるものの、映画作品としては予想以上に難解で、監督独自の「夢のまた夢」ゾーンに引きずりこむかのような奇ッ怪な印象をうけた。
この作品で推したいのは、全編を35ミリフイルムで収録し、その銀塩透過フイルムが醸す美しさが全編に溢れている点。調べると「KODAK 35mm 200T」というタングステンカラーネガフイルムと、「KODAK 35mm Double-X」モノクロネガフイルムで撮影しているとのこと。
スチルカメラの世界では既にフイルムは過去の遺物といった扱いを受けている現在、劇場上映を前提とした映画作品の世界では今もコダック社製の35ミリフイルムが多用されている。それは、旧来からの映画作品としての美しさや空気感、厚みといった独特の世界観を表現し受け手に感銘を与えるためには、歴史に裏打ちされた銀塩フイルムのもつ特性を使ってこそ、という確固とした評価を映画人が強く持ち続けているからだと感じる。たまにはこういう映画を観て、フイルムのもつ力量、真価に浸ってみるのも良いものだと思った。
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